紙上ブログ 悪徳不動産屋の独り言 賃貸現場の喜怒哀楽 第90回 坂口有吉
住宅新報 2011年3月1日 号 5面
「敷金清算で退去者を黙らせる方法」
評価してくれる相手を好む
多摩郊外のアパートに新築の時から入居していた夫婦が退去することになった。夫婦といっても入居時の奥さんとは離婚していて、今の奥さんとは再婚である。先妻との間には子供がいて、ご主人が引き取っているから、今の奥さんは継母ということになる。
だが、虐待とかはなく我が子のように可愛がっていた。むしろ、実の母親である先妻のほうが、真冬に子供を家の外に出して折檻(かん)したりして、家主さんが保護していたこともあった。私も何度か家主さんから相談を受けていた。なので、その奥さんと別れた時には家主さんも安堵していたほどである。子供に対する虐待だけでなく、家賃も滞り始めていたからだ。敷金返還は
数年後、ご主人は再婚したが、再婚相手はしっかり者で、家賃の遅れなど全くなくなった。月末までにキッチリ翌月分を家主さんのお宅に届けにくる。数年して、子供が増えることになり、引っ越すことになったのだが、ここでちょっと心配な問題が生じた。
奥さんが前もって「敷金はどれくらい戻るのか」を問い合わせてきたのである。そんなことは立ち会いをして室内をチェックしてみなければ分からない。基本的にはルームクリーニングの費用だけ差し引くことになるが、なにせ小さな子供がいたことだし、先妻はだらしなかったので、全部が「減価償却」と認められない可能性がある。迂闊(うかつ)なことを言って言質(げんち)を取られてはかなわないから、言葉を濁して立ち会いに臨んだ。全額放棄
奥さんとは初対面だったが、一目見て性格がキツイのでなく、先妻より低い評価を受けたくなくて片意地を張っているだけと分かった。それで、室内のチェックの前に、2人にこう言った。「Yさん、いい奥さんをもらいましたね。この奥さんに逃げられるようなことがあったら、Yさんは一生の不作になると思うよ」と。それはお世辞でなく本当にそう思ったのだが、我ながらすごく有効な先制パンチだったと思う。事実、それまで奥さんの表情に浮いていた対決姿勢が消え、敷金返還請求どころか全額放棄してくれた。人は誰も、自分を高く評価してくれる人を好む。私はただその原理を応用しただけのことである。(坂口有吉不動産・社長)













