「地を掃(はら)う」 松岡英雄 新住まいのことわざ(54)
住宅新報 2011年2月22日 号 22面
地面を掃いたように何も残らない。すっかりなくなる。すっかりすたれてしまうことである。
トニーという愛称で人気のあった赤木圭一郎が、我が家の近くに撮影に来るというので学校を遅刻して見に行ったことがある。映画スターを直接見る機会の少ない地方の少年には、よほど刺激的な出来事だったらしく、今でもその朝の光景が鮮明に浮かんでくる。
しかし、それより衝撃的だったのはその翌年、61年2月21日、撮影所の中でゴーカートの運転操作を誤って倉庫に激突し、21歳の若さで帰らぬ人となったことだった。50年前、私が中学3年のときのことである。
トニーの映画を見たのは、大学生になってから。社会人になっても、テレビで放映されたりして何本か見た。死んだスターの映画を見るのは妙な感覚だった。今、寅さんの映画を見るのとは違う感覚である。
若くしてクルマの事故で死んだスターにジェームズ・ディーンがおり、トニーも和製ジェームズ・ディーンなどと呼ばれたりした。カラオケに行ったりすると、トニーの「霧笛が俺を呼んでいる」を歌っているのを耳にする。トニーのファンが未だにいるらしい。
日活撮影所を見に行ったことがある。正確には、撮影所の跡地、調布市の多摩川河岸の土地を訪ねた。そこには、大きなマンションが建っていた。トニーのことも撮影所があったことも知らない子供たちが、元気に遊んでいた。
(エッセイスト)













