よく分かる不動産証券化とビジネス活用<第139回> 不動産投資・証券市場を展望 (上)
住宅新報 2011年1月18日 号 3面
新たな成長ステージ迎える
不動産の収益に注目
08年秋に起きた金融危機は09年春頃から沈静化に向かい、昨年には金融機関の貸出姿勢もかなり緩和しました。また、株式・債券市場での企業の資金調達も徐々に活性化してきています。一時期大きく下落した不動産価格も、都心一等地では横這いから上昇に転じるところも見られるようになってきました。まだ、売主と買主の価格目線に違いがあるため、大型不動産が次々に取引される状況にはないが、不動産投資・証券化市場は、約10年間のビジネスサイクル(周期)を経て、新たな成長ステージに向かいつつあるといえるでしょう。
そこで今後の不動産投資・証券化市場を展望する際の着眼点を整理していくことにします。そのポイントは、大きく3つあります。
1つ目は、グローバルな金融経済の動向です。不動産投資市場は証券化を通じて金融市場と密接化し、かつ海外からの投資資金が日本にも大量に流入するようになったため、日本の不動産投資市場も、もはや世界の金融経済の影響から逃れることはできなくなりました。それが端的に現れたのが、一昨年の金融危機です。
現在のところ、米国ではサブプライムローン問題は小康状態にあるものの、本質的な損失処理はこれからですし、商業用不動産向けローンのデフォルト(債務不履行)比率も相変わらず高いレベルにあります。欧州においても、ギリシャに端を発した国の財政問題が他国へも波及しつつありますし、金融機関の体力にも不安が残ります。アジアの新興国が世界経済を牽引しており、このまま軌道に乗れば、企業の収益増加、税収の増加、資産価格の上昇などによって、これらの潜伏している問題は徐々に解消され、顕在化することはないかもしれません。しかし、何らかのきっかけで歯車が逆回転したときには、世界経済が再び下降線を描く可能性も否定できないことから、常にグローバルな金融経済の動向を頭の片隅に置いておく必要があるでしょう。
2つ目は、不動産価格の動向です。資産価格が上昇に転じなければ、市場の本格的な回復は期待できないからです。単純化すると、不動産価格=不動産の収益(キャッシュフロー)÷キャップレート(取引利回り)となります。東京都心部のオフィスビルを例にとると、現在のところ、空室率は下げ止まり感があるものの、賃料単価は引き続き下落を続けているため、不動産の収益は小幅ながら減少傾向にあります。一般に、空室率の下げ止まりから賃料の反転までは半年以上のタイムラグがあるのが通常で、当面は「不動産の収益」の減少は続くものと思われます。
一方、「キャップレート」は既に低下し始めています。リスクある資産に投資するときには、投資家は高いリターン(投資利回り)を求めます。安全な資産に投資する場合に比べてどれだけプラスアルファのリターンを求めるかを示す指標が「リスクプレミアム」であり、一般に「不動産の期待利回り」から代表的な安全資産である「国債の利回り」を差し引くことによって計算されます。東京の大手町丸の内地区のオフィスビルについて、このリスクプレミアムの推移をみると、00年代前半には3.5%程度でしたが、不動産市況の好転とともに徐々に低下し、07年には約2%になりました。金融危機後、不動産価格の下落リスクが高まった中で、一時的に3%近くまで跳ね上がりましたが、再び縮小傾向にあります。
すなわち、現在は「不動産価格=不動産の収益(キャッシュフロー)÷キャップレート(取引利回り)」の公式のうち、分子も分母も低下している状況にあるものの、分母の改善効果が大きいために、競争力あるオフィスビルの価格は横這い(場合によってはわずかながら上昇)になってきているわけです。ただし、「不動産の収益」の落ち込みが激しい一部のビルなどでは、キャップレートの低下幅も少ないので、引き続き価格は下落しています。
今後は、リスクプレミアムの縮小によるキャップレ-トの低下余地がまだあるので、金融経済の先行き不透明感が払拭されるにつれ、不動産価格は徐々に上昇すると考えられます。しかし、キャップレートは既にある程度まで戻ってきているので、本格的な不動産価格の回復には「不動産の収益」そのものが上向いてくる必要があるでしょう。
(つづく)













