地域マネジメント学会 現場から論文 公共投資を媒介とした経済政策--重視される「福祉的効果」
住宅新報 2009年2月17日 号 5面
アメリカのサブプライムローン問題に端を発した世界的な金融危機の影響もあり、現在我が国では景気情勢が厳しさを増している。08年11月の内閣府の「月例経済報告」は、我が国経済の基調判断を2カ月連続で下方修正し、前月の「景気は弱っている」という基調判断に、「更に、世界経済が一段と減速するなかで、下押し圧力が急速に高まっている」という文言を追加した。
また、雇用統計のなかの景気の一致指標である有効求人倍率(季節調整値)は低下傾向であり(10月は0.80倍)、1倍を切る道府県は39に拡大し、地方圏においては地域経済の疲弊、失業率の上昇懸念など極めて厳しい状況に陥っている。
このように景気後退が続き雇用情勢が今後更に厳しさを増すことが懸念されるなか、政府の景気対策・雇用対策など財政出動の必要性が議論されている。ここでは、公共投資を媒介とした地域経済政策を福祉政策の観点から検討することで、マクロ経済政策と地域経済活性化策が補完し合い、相乗的な効果をもたらす方向性を考察したい。
◇
◇
戦後の我が国においては、経済成長がもたらす人口の大都市圏への集中、またそれと表裏一体の関係にある地方圏における過疎化に対し、中央政府が大都市圏からもたらされる豊かな税収を、公的資本形成という形を通じて地方圏に還流することによって地域経済の振興を図ることが一般的であった。
この地方圏における公共投資による社会資本整備は、日本全体の「国土の均衡ある発展」を促すと同時に、公共投資に伴う所得再分配機能を通じて、地域経済を安定的に支えつつ、不況期には雇用の受け皿として地域経済の景気を下支えする効果をも持つなど、極めて大きな役割を果たしてきた。特に、公共投資による雇用創出効果は、失業を減少させ、生活保護や失業給付などに対する財政支出を抑制させるというように、福祉政策そのものを代替する効果、すなわち「福祉の肩代わり」「予防的福祉」の効果をも果たしてきたのである。
たとえば、バブル経済崩壊後の1990年代の景気低迷期における一連の経済政策の柱の1つは公共投資であったが、本来ならば生活保護の受給世帯になっていた可能性のある世帯が、公的資本形成に関連する仕事に従事することによって所得を得て、自立した生活ができるようになったというケースが多く存在したと考えられる。
また、経済成長志向型の政策展開に伴う成長の結果、雇用機会の拡大や所得水準の向上によって生活困窮者の増加が抑えられたとも考えられる。これらは、とりもなおさず公共投資が「予防的福祉」の効果を発揮したものととらえることができる。
こうしたマクロ経済政策は、公共投資による社会資本整備を通じた経済成長の促進政策であったと同時に、福祉政策としての側面、ないしは雇用創出効果により福祉政策そのものを代替する効果をも期待されていた側面が極めて大きいことが、経済政策としても福祉政策としても特徴的なのである。
このように公共投資を媒介とし、福祉政策的効果をも実現させた経済政策は、国家の政策体系として、日本の経済成長志向型の政策展開の特殊性であるととらえられよう。このことは、東京大学総長を務めた佐々木毅教授が指摘する「対外的消極主義と国内版経済主義との結合が政策体系全体の特徴」でもある。
以上みてきたように、公共投資が多義的な役割を担っていることを看過してはならない。一方で、公共投資には負の側面もある。国庫支出金(補助金)の交付額をめぐる陳情行政の弊害や、実施される公共投資には社会経済情勢の変化にそぐわないものや必要性の低いものもあることなど、真に効率的な政策を打てない事態も多々存在したことは、これまで指摘されている通りである。今後は、従前のそうした非効率を排し、限られた予算制約の中で公共投資を最大限に生かす方法を真剣に模索することが、国にも地方にも求められる。
特に、現在の国と地方における厳しい財政事情や、これまでの公共投資の効果に対する批判に鑑みれば、もはやケインズが「穴を掘って埋める」とたとえたような、従来型の公共投資にみられた有効需要の創出による一時的な景気回復という短期的な処方箋を、今後続けることはできない。
今後の日本経済と財政政策を考察するうえでは、これまで述べてきた公共投資を媒介とした経済成長志向型の福祉政策の特殊性を考慮しつつ、従来型の公共投資に対して指摘されてきた諸問題を改善し、福祉政策と経済成長とを両立させてきた政策のプラスの側面を意識的に展開させ、地域経済全体をも牽引するマクロ経済政策を構築していくことが重要である。
(金子
憲・首都大学東京准教授)













