紙上ブログ 悪徳不動産屋の独り言 賃貸現場の喜怒哀楽 第82回 坂口有吉
住宅新報 2011年1月4日 号 5面
逆恨みした滞納者のその後
生活困窮、明日はわが身
欠かさず見ているテレビドラマ「相棒」で、身につまされるストーリーがあった。12月15日に放送されたもので、転落死した若い男が、最終的には自殺であった、という、今までの刑事モノとは一線を画した風変わりな筋書きだ。死んだ男は、いくつもの仕事を次々と解雇され、婚約者からも愛想を尽かされ、古物商や連帯保証人の名義貸しをし、スーパーの試食を梯子して食いつないだ。生活保護の申請も受け付けてもらえず、就職のための最後の砦であった元のアパートにも新しい住人が入居して、ついに弓折れ矢尽きてビルから飛び降りた、という話。だが、死ぬ気だったワケでなく、飛び降りる際に、治療費の不正請求に当たらないよう我が身を傷つけていたことで捜査が撹乱されてしまっていたのだが……。逆恨み
番組を見ていて、ある入居者を思い出していた。10年近く前のこと、風呂なしの部屋を借りて半年も家賃を滞納していた若い男が、アパートを追い出されたのを逆恨みして、私に脅迫状を送りつけてきた。「俺をこんな目に遭わせたオマエを殺してやる」という内容で、方法としては幼稚この上ないものだった。明け渡しに立ち会った父親は私に対し、「どうしてこんな子供に育ってしまったのか」と空を見上げながら泣いていて、同じ世代の子供を持つ私にはその気持ちは痛いほど分かった。デパートで
数年して、街で再び男を見かけたので、「どこに行くんだろう」と思って後をつけてみると、デパートに入っていった。デパートに用があるハズはないから、男が何をするのかは直ぐに分かった。男は真っ直ぐ地下に進んだ。そう、試食販売が目当てだったのだ。柱の陰からそっと様子をうかがうと、販売員が目を離したり、持ち場を離れた隙にサッと口に放り込み、次の試食販売に向かう。手馴れたものだ。
最初は適当なところで、「おい、滞納家賃を払えよ」と声を掛けるつもりだったが……、やめた。なんだか切なくなったからである。そんな生活を送っているのは間違いなく本人の責任である。だが、今は何とか食っていけていても、明日は我が身かも知れないではないか。自分だけはそうならない保証などないのだから。
(坂口有吉不動産・社長)













