紙上ブログ 悪徳不動産屋の独り言 賃貸現場の喜怒哀楽 第85回 坂口有吉
住宅新報 2011年1月25日 号 5面
退去した高齢女性との長い付き合い
善行悪行の帳尻合わせ
7年ほど前、当社の管理物件に申し込みが入った。内容はデパート勤務の娘さんと母親での2人入居。審査の上では特に問題は無かったが、不安要素が一つだけあった。
まだ30代の娘さんが病気を持っていたのだ。病名は脳腫瘍である。申し込みの直前に手術を受け、現在は休職中とのこと。元々は別々に暮らしていたのだが、娘の世話をするために70近い母親が同居することになったようだ。申し込みをしてきた同業者は、そのあたりの状況を包み隠さず打ち明けてくれていたし、私も母親と電話で話してみて「ああ、この人なら大丈夫」と確信が持てたので契約をし入居してもらった。生活保護
私が思ったとおり、家賃の滞納などもなく、何のトラブルも起きなかったが、2年ほどして娘さんの病気が悪化し、突然亡くなってしまった。親1人子1人の生活だったからそうなると生活は立ち行かなくなる。その数年前にご主人が亡くなるまでは酒店をやっていて、元々の家柄も良く、昔は何不自由なく暮らしていたそうだが、友人たちの勧めもあり生活保護を申請することになった。役所には何度も足を運ぶが一向に受理されず、知り合いの市会議員の一言で決定が下りたのは最初の申請からおよそ1年後。1日千円
「福祉のお世話になるのだから、何もかもキレイにしておきたい」と役所には預金通帳も僅かに手元に残っていた現金も全て預けて慎ましく暮らしていた。「1日の生活費は千円だけどそれで充分」と笑う。世の中には隠し事や不正をして生活保護を受けている者はゴマンといるが、実に立派である。
それから1年ほどして市会議員の勧めで都営住宅に移ることになった。「敷金が戻ってきたら、それも市役所に渡す」と言うので、私は現金で返却することにした。それくらいのヘソクリはあって当然だし、なければ困るものだろうから。
退去してもう数年経つが、今も親しくさせて頂いている。私は女房の実家で細々と作っている米を、新米の季節には毎年30キロお送りしている。いつも「こんなに要らないよ」と泣きながら電話してくるが、私は自分の人生の善行悪行の帳尻合わせをしているだけだ。
(坂口有吉不動産・社長)













