ひと 水害は『克服すべき脅威』 海抜ゼロメートル地帯が7割を占める東京・江戸川区の土木部長 土屋 信行さん
住宅新報 2010年12月14日 号 2面
荒川、江戸川と海に囲まれた東京・江戸川区で、災害対策の陣頭指揮を執る。08年には、アムステルダムや台北など世界の海抜ゼロメートル都市に呼び掛け、サミットを開催した。国境を超えて技術の共有に努めている。
地盤沈下が進んだ結果、区域の70%が海水面より低い位置(満潮時)にある同区。文字通りの生命線である堤防が決壊すれば、水没する可能性すらある。しかし、幅や高さが十分とは言えず、また老朽化により水漏れを起こしている個所もあるのが現状だ。「対策は待ったなし」と、危機感を隠さない。
土木技師として水門復旧工事に従事していた祖父は、台風の最中に36歳で殉死した。「私は、郷のために死ぬ。お前は何のために死ぬか」との遺言を後世に託したという。「重い」と苦笑しつつ、「私も、最後は世の中の役に立って死にたい」と真っすぐに語る。
洪水が原因で祖父を亡くしたが、その危険がある地域での居住を否定するのではない。高度な古代文明はいずれも水辺で発達し、江戸の町も舟運を都市システムに組み込むことで発展を遂げた。同区に関して言えば、都心への近さ、下町ならではの人情味も大きな魅力。自身も、この第2の故郷に骨をうずめるつもりでいる。だからこそ、「洪水に備えつつ、水と共生する力を養うべき」という主張には説得力がある。
備えとは具体的に何を指すのか尋ねると、意外な答えが返ってきた。「散歩」。日々変化する水位を確認し、「川は海とつながっている」と実感することこそが何よりの防災だという。では、不動産業に携わる者に対して望むことは。
「地下室(の設置)は、極力避けてほしい。せめて、駐車スペースなど非居住空間として提案してみてはどうか。マンションの1階部分も、ピロティなど住居以外の用途での活用を検討してもらえたら」
洪水は『克服すべき脅威』。立ち向かう覚悟を、地域にかかわる者すべてに問う。
(鹿島
香子)













