住宅・都市・不動産業 新成長戦略で明るい未来を築け! 紙上対談シリーズ(8)農林・林業再生と木造住宅振興をどう進めればいいか
住宅新報 2010年9月28日 号 7面
シリーズ第8回(最終回)は「森林・林業再生と木造住宅振興をどう進めればいいか」。CO2を吸収・固定する森林・林業再生は地球環境に直結する重要な課題だ。その鍵を握るのは木材の活用、つまり木造住宅の振興だ。この問題に詳しい民主党の前田武志・参議院議員と、森林育成から住宅までを一貫して手掛ける住友林業の矢野龍会長にご登場いただいた。民主党参院議員・前田
武志氏省エネ・耐震改修
民主党は経済対策の柱の1つに住宅政策(省エネ・耐震リフォーム大作戦)を位置付けています。新成長戦略の中では、環境では住宅エコポイントの拡充などを、地域経済再生・雇用では一般住宅を含む省エネ・耐震化の加速と、木造住宅の振興です。
森林・林業対策と木造住宅振興をどう進めるか。ベースになるのは5700万戸の既存住宅の省エネ・耐震リフォームへの取り組みです。戸建ての大半は木造在来工法です。もちろん新築市場もありますが、年間80万戸が150万戸になることはないわけです。もっと耐震改修と省エネ改修にインセンティブ(税制、補助金、エコポイントなど)を与えて、改修を進めさせること。そして、光熱費が低下するなど目に見えて経済的メリットが出てくる制度にしていく必要があります。
耐震改修は、関東大震災や阪神淡路大震災並みの地震がくると危ない住宅が多いので、緊急を要する問題です。個別の住宅だけでなく、街区、地域の安全性に関わってくるため、当然、公的な意味が出てくるわけです。持続可能な地域経済に
住宅改修と林業の再生は直結しています。北海道・東北は寒冷地型で、断熱リフォームなどでは当然、多くの材木を使います。それは地域の材木で、青森ヒバ、秋田スギ、エゾマツなどです。断熱リフォームや耐震リフォームを行うことが豊かな生活に大きなメリットになることを、早く制度的に実証できるようにしていかなければならない。改修の進め方は、資材、材木を含め、地域の資源をフルに使うことです。それは大工さんや左官、設計士や工務店など、人材とお金を含めて。そうすることで持続可能な地域経済づくりにつながるわけです。年間250万戸の改修目標
ドイツでは断熱リフォームは年間150万戸まで増え、新築と逆転しました。EUの厳しい環境性能規制ができたこともありますが、大きいのは年間約3000億円の補助金を投入していることです。断熱改修をやると「コストが格段に下がって、10年も経たないうちに工事代が回収できる」「結局、得になる」と、急に増え始めたのです。
日本の場合は「CO2の25%削減」を前提とすると、年間250万戸のリフォームの必要があります。「とても無理」という声もありますが、既存住宅3900万戸のドイツが150万戸をやっているわけですから、できない目標数値ではありません。使い捨てからの転換
リチャード・クー氏(野村総研)は、「日本人が豊かさを感じられないのは住宅資産の価値の実態が失われているため」と指摘します。07年の全住宅の現存価値(固定資産)は約230兆円ですが、70年代以降、住宅は20-25年経つと現存価値は劣化してゼロになるという使い捨て型住宅政策がとられました。それで資産価値が446億円も失われ、米国並みに評価された場合と比較すると、650兆円もの資産価値が失われたといいます。米国並みに住宅価値を高めていれば、日本の住宅資産価値は約900兆円になります。この使い捨て型住宅政策、新築に偏りすぎた政策を大転換しようというのが民主党の住宅政策です。「木の文化」の必要性
外材に対する対抗策となると、考え方はいろいろあります。自民党政権時代にできなかったのは、一番大きな原因は統合的政策が持てなかったことに尽きます。政策に責任を持って取り組む組織が実はなかった。林野庁は森林の育成には責任を持つが、何に使うかは関知していません。下流の住宅は国交省で、家具調度品は経産省です。そして大工さんや一級建築士は文科省の管轄で、大学で「木の文化」を必須科目にしているかというと、していません。
私が子供の頃はすべて木の文化でした。あえて組織的に「日本の木の文化」や木材利用を統合する役所は必要なかったのです。造作するときは近くの大工さん、大きな改修は棟梁に頼んでおけばよかった。その仕組みが急激になくなり、制度的な手当てが必要になったのに、してこなかった。対策としては、木の文化まで組織的に責任を持つようにしなければなりません。森林・木材は唯一のCO2の吸収源ですから、木の文化を振興していかなければならないのです。フォレスターの育成
「森林・林業再生プラン」が国家プロジェクトに位置付けられ、まず、サプライチェーンシステムの整備が動き始めました。エンドユーザーまで想定して、森林の育林からタイミングを見計らった木材の出荷。更に、細分化されている所有形態をどうするかなどトータルのマネジメントをするのがフォレスターですが、この森林経営者の育成を予算化しています。フォレスターと消費者を結ぶのがハウスメーカーであり、工務店、大工さんなどです。
我々が推進する既存住宅の省エネ・耐震リフォーム工事は、家一軒一軒、それぞれに違います。その改修工事を年間100万戸以上実施するとすれば、大手ハウスメーカーなどが行うにしても、個別対応の仕事ですから、必ず地域の工務店や大工さんと連携するようになるはずです。そうすると、地域経済は持続的に動き出してきます。住友林業代表取締役会長
矢野
龍氏堂々と森を守って
住友家の林業の生い立ちは1691年の別子銅山開坑が起源。坑木や生活用材を確保するため、計画的に山林管理をしたのが始まりです。その後、住友林業は営々として森林を守り、自然環境に貢献してきている、非常にユニークな会社です。森林・林業の現状
私が入社した頃は、木の資産価値は高く、農家は木を植え、我が社も山を少し増伐すると利益が出た良き時代でした。それが、半世紀後には180度変わった。現状は、伐採費用が出ない、搬出費用が出ない、搬出した後の加工費用も出ない状況です。
その原因は、国土の67%が森林という森林国とはいえ、山林は急峻でしかも小規模経営で林区が分散していること。85年のプラザ合意以降、円高が進んで、輸入品の価格が3分の1になって、競争力を失ったことです。国際競争力で大切なのは、安定した品質、安定した価格、安定した供給量の3つですが、それを備えた外材に敵わなくなったのです。変わる国際木材需給
国産材は30年前から、住宅資材として数量的には必要ない状態で、スギもヒノキも30年間、伐採されずに残っているものがかなりあります。これをどう活用するかという課題もあります。
また、ここ5年間で世界の木材需給が大きく変わりました。1つは石油価格の変動で、船の燃料費が上がったこと。2番目は中国、インド、中近東の需要が爆発的に伸びてきたことです。ロシアは、船で日本にではなく、鉄道で中国市場に持っていきます。木材の輸入大国は日本から中国に変わりました。民主党政権になって
民主党政権になって、菅直人総理は「森林と林業の改革」を訴えています。「林業を再生することで地域を活性化して雇用を促進する」と。これは以前から言い続けてきたことですが、再生のためには補助金などで守ってもダメで、今は農業も林業も水産業もすべて、国際競争にさらされているのですから、規制緩和というより自由貿易への対応が必要です。これは50年単位の国策としての森林・林業改革という位置付けで取り組んでもらいたいと思います。
具体的にやるべきことは集約化や大規模化、それに機械化です。山で働く人が減り、高齢化も進んでいるのですから、日本の地形に合う機械化をしなければならない。そのためには、まず植林を行い、それを下刈り、枝打ち、間伐と手入れを行い、伐採後にまた植林を行うというサスティナブルな仕組みを確立することが必要です。時間はかかりますが、日本の林業は必ず甦ります。国内の需要が減っていても、成長するアジアの市場があり、輸出できます。「都会に森をつくる」
地球上で唯一再生可能な資源は「木」です。同時に「木」はCO2を固定している唯一の資源です。「木造住宅は都会に森林をつくる」のと同じ効果があります。我が社の住宅は平均43坪で、3000万円ほどですが、平均22.6トンのCO2を吸収・固定している勘定になります。もっと木の家のよさと効用をPRしていきたいと思います。
住友林業は、世界一の森林会社を目指しています。それは地球上で唯一再生可能なのが森林であり、更に森林はCO2を吸収・固定するからで、これは社会、国民のためになるからです。需給の信頼関係構築を
国土交通省社会資本整備審議会委員として住生活基本法などの法案づくりに参画、議論して分かってきたのは森林・林業を立て直さなければならない、ということです。国産材を優先的に活用して、植林から製材、加工、マーケティングまできちんと行えば、再生できるということです。
ただ、問題もあります。供給者側と需要者側のミスマッチが起きています。行政の役割は、単に補助金を出すのではなく、流通のストック機能を含め、全体の流れの中で需要者側と供給者側の新しい信頼関係を構築していくことだと思います。公共建築と規制緩和
木は本質的に耐火性があり、安心・安全な素材で健康にいいうえ、遮音性にも優れています。学校では廊下を木に替えるようになりました。5月26日には「公共建築物等における木材の利用促進に関する法律」も公布されましたが、我が国はまだ、木造住宅に対する耐火規制が諸外国に比べて厳しい。木の良さが認識されているのに、型式認定や外壁の耐火構造に関する大臣認定なども含めて。耐火性の研究・検証をもっと進め、木造建築に対する実態に基づいた規制緩和が必要です。大工さんを育成
我が社は75年に木造住宅に進出しましたが、大工さんが減っていくことに危機感を覚え、23年前(88年)に住友林業建築技術専門学校を千葉県四街道市に開設。毎年、40人前後の大工職を目指す若者を受け入れ、これまで856人が卒業しています。今後も担い手の育成や全国の中小工務店の皆さんの支援を続けていきたいと思います。前田武志(まえだ・たけし)
参院議員当選2回(比例区)、元衆院議員(4期)。建設省勤務、国土政務次官。党企業団体対策委員長、常任幹事会議長などを歴任。京大工卒、72歳。矢野龍(やの・りゅう)
日本木造住宅産業協会会長。住宅生産団体連合会副会長。63年住友林業入社。99年取締役社長、10年から現職。北九州大外国語学部卒、70歳。













