トラブルを未然に防ぐ! 不動産調査の実務ノウハウ(81) 『筆界』と『境界』 その意味の違い
住宅新報 2010年6月15日 号 6面
5月31日、法務省は、平成7年から21年までの「登記事件の件数及び個数」の統計を発表しました。それによると、平成21年度の筆界特定の件数は2579件となり、制度運用開始以降の累計では1万551件で、1万件を超えることが分かりました。
平成18年1月20日に筆界特定制度が実施されたことを受けて、平成20年11月25日の宇都宮地方法務局に始まった登記事項証明書の表題部への「筆界特定」欄の新設など、現在、全国の(地方)法務局において、順次、様式は変更されつつあります。
実を言いますと、現在の筆界特定制度が創設される以前に、廃案になった制度があります。平成16年5月28日、裁判官判事などで構成する「境界確定制度に関する研究会」は、「新たな土地境界確定制度の創設に関する要綱案」を発表し、「境界確定登記官は、土地の境界が明らかでない場合において、必要があると認めるときは、職権で、境界確定の手続を開始することができる」と、『筆界特定制度』ではなく『境界確定制度』を提案していました。
この廃案では、「この制度による境界確定は、登記された1筆の土地の客観的範囲を画する境界を確定するものである。これにより、当該1筆の土地の所有者が当該1筆の土地に係る所有権の対抗力を主張することができる客観的限界・範囲が確定される」としました。
つまり、「この制度において、『境界』とは、相互に隣接する1筆の土地と他の土地との境を特定するための2以上の点及びこれらを結ぶ直線をいうものとする。『境界確定』とは、土地の境界が明らかでない場合において、この制度の定めるところにより法務局又は地方法務局の長の指定する登記官が境界を確定することをいうものとする」としていました。
このように、幻となった『境界確定制度』は、『筆界』と『所有権の境界』とを一本化して『境界』と示して、境界紛争の混乱を一気に解決できることが期待された画期的なものでしたが、残念ながら、政府の閣議了承を得られず廃案となった経緯があります。
筆界特定制度について、法務省は、「筆界特定制度に関するQ&A」で、「『筆界』とは、ある土地が登記された時にその土地の範囲を区画するものとして定められた線であり、所有者同士の合意等によって変更することはできません。これに対して、『境界』という語は、所有権の範囲を画する線という意味で用いられることもあり、その場合には、筆界とは異なる概念となります」と説明していますが、『筆界』と『境界』の言葉の意味の違いは、一般消費者にとっても理解しにくいものです。
そのために、「筆界特定が対象土地の所有権の境界の特定を目的とするものでない」と定めて、『筆界』と『境界』とを区別したうえでの『筆界』を特定する制度とも言えます。
現在の筆界特定制度が、このような歴史的背景のうえで成立したということを考えるのも『筆界』と『境界』の言葉の意味の違いを理解するうえで役に立つでしょう。(エスクローツムラ代表取締役・津村
重行)













