「孟母三遷(もうぼさんせん)の教え」 松岡英雄 新住まいのことわざ(15)
住宅新報 2010年5月11日 号 14面
中学校の漢文の授業で教わった話である。中国、戦国時代の思想家・孟子の母が、子供の教育に適した環境を選んで居場所を三度移した「列女伝」にある故事。
最初、墓地の近くに住んでいたが、孟子が葬式のまねをして遊ぶので、教育上望ましくないと、市場の近くに引っ越した。すると、今度は、商人のかけひきのまねを始めたので、再度、学校のそばに転居すると、今度は礼儀作法のまねをするようになった。
孟母は、こここそ子供を育てるのにふさわしい環境として居所を定めたという。
この話でうらやましいと思うことが二つある。一つは、納得がいくまで引っ越しができたこと。今ではこういうわけにはいかない。賃貸マンションを替わることだって、やれ敷金だの、礼金だの、引っ越し費用だのと大変な出費を覚悟しなければならない。持ち家で希望通りに引っ越すことなど、庶民には至難の業である。
もう一つは、孟母の期待に孟子が見事に応えていること。これも親が思うようにはいかないことである。
今から30年前、長女が地元の県立高校に入学できたらと考えた私の一存で、狛江市(東京都)から藤沢市(神奈川県)に引っ越した。娘はその時小学4年生、周到な計画であった。確かに、教育環境は申し分なかったし、娘も親の期待に応えようと、精一杯頑張ってくれた。しかし、希望は叶わなかった。孟母の教えを実践することはなかなか難しい。
(エッセイスト)













