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スタンダード会員限定「農」でつながる人と人 畑付き賃貸の力(下)

住宅新報 2010年4月27日 号 1面

「つながり」が生む

 住み続けたい賃貸

 敷地にスペースさえあれば、畑を設置するのに別段大きな費用負担は生じない。とは言え、大きさや使い勝手を考慮せずにただ「付けただけ」の畑は、別の用途で利用されてしまう可能性もある。契約上どう使うかは入居者の自由だが、それではせっかくのコンセプトが台無しだ。

 「農作物の栽培は手間も時間もかかる」。農作業の実践者でもあるカトウアーキテクトオフィス(東京都中野区)代表の加藤雅康氏は、その難しさを指摘する。そこで、設計を手掛けた戸建て賃貸「ベジハウス」の畑に、『挫折防止策』としてあらかじめ耕した土を入れる予定だという。「野菜作りと言っても、普通1年目は土づくりで終わってしまう。種をまけば作物が育つ状態にしておくことで、ハードルが低くなるはず」(加藤氏)。

 東京・足立区の畑付きアパート「花園荘」でも、畑を生活動線に組み込むアイデアが生かされている。状態を常に意識できるよう、あえて門から玄関までの間に畑を設置。土汚れを落とすための土間スペースを作り、キッチンも畑を見渡すことができる場所に取り付けた。収穫期の野菜を、その日の献立に取り入れやすいようにとの配慮からだ。

 こうした工夫は規格住宅の概念から外れ、当然手間やコストがかさむ。だが、長期にわたり入居者を囲い込むことができれば手間をかけるだけの価値があり、生産とは別の観点から畑の機能に着目すると、その可能性が見えてくる。

 「隣の区画同士から始まって、利用者のコミュニティが広がっている」。区内の農園管理を担当する、練馬区都市農業課職員の言葉だ。作物が食べ頃を迎えると、「1つどうですか」と会話が始まり、そのうち互いに栽培法や美味しい調理の仕方を教え合うようになる。土に触れて作物を育てる喜びだけでなく、畑を介したコミュニケーションも、農に取り組む醍醐味となっているようだ。

 同様の光景が、花園荘の日常にも根付いている。入居者の女性は、「出がけにお隣さんが畑で手入れをしていると、あいさつからちょっとした会話が弾む。以前住んでいた賃貸住宅では近所付き合いがなかったが、今は畑が顔を合わせるきっかけ」と話す。

 入り口にある共有スペースも、重要なコミュニケーションの場だ。「皆が気軽に集えるスペースがあれば、畑を介して生まれた『つながり』が生きる」(家主の平田裕之氏)との考えから設置されたもので、昔でいう『井戸端』のように人が自然と集まってくる。平田氏の家族もよく顔を出し、自宅の庭で採れた旬の果物をおすそ分けするという。「入居者さんの方から、『皆で○○しよう』というアイデアが次々出てくる。昨年は建物の日よけ用に植えたゴーヤがたくさん実を付け、チャンプルー以外の料理を試行錯誤して一緒に作りました」(平田氏)

 平田氏の父・昌孝さんは、「家も畑も借り物。だが、そこで過ごした思い出はずっと残る」と話す。畑をきっかけとした住民同士の連帯から、アパートへの愛着が芽生える。それが、仮住まいであっても「長く住み続けたい」という思いにつながっていく。実際、入居者の顔ぶれは、2年半が経過した現在も変わっていない。

 部屋探しでまず重視されるのは、賃料と利便性だ。建物の新しさや最新の設備も大きな動機になる。だが、そのほかに「この先も借り続けたい」と入居者に思わせる要素があるとすれば、『つながり』ではないだろうか。「隣に誰が住んでいるか分からない」状況が普通とされる中で、人と人をつなぐ役割を果たす『畑』を付けた賃貸住宅は、賃貸経営の新たな方向性を指し示していると言える。

 (鹿島

 香子)

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