住宅産業から「居住福祉産業」へ 安心できる住まいをどうつくる 座談会<3>
住宅新報 2010年4月20日 号 7面
地域に貢献する発想
政策転換で大きな可能性が●根っこを大切に○村田
居住福祉的発想をきちんと国が打ち出すことはとても大事ですが、その方法論は各自治体によって全部違っていい。各自治体が居住福祉の思想に則って、福祉と住まいをどうドッキングさせ、いい暮らしをつくっていくかです。
自分が生まれた根っこを大事にしていく。根っこを崩して、どこかに大団地をつくったから「お入りなさい」なんて、神戸の大震災でもう分かったわけです。みんな閉じこもって、うつになってしまう。○早川
よいご指摘ですね。神戸では復興公営住宅ができて10年ほど経ちますが、今年まで650人ほどが孤独死、自殺をしているのです。皆さん、まちから切り離されて孤立した。まさに居住福祉の逆行です。ライフサポーターが一軒一軒訪ねて声をかける。ある人は「仕方ないから『元気ですよ』と言っているだけ」と言います。まちに戻らないと犠牲者は増え続けると思います。○村田
根っこをもぎ取る政策はいけない。○早川
根本が間違っている。居住福祉産業という命題を立てたら、住宅産業界はいかに取り組んでいくか。政府、地方自治体、農村、漁村、中山間地ではどうするか。柳内さんの「長生き村」構想に対し、村田さんは反論されたが、千葉の方の居住福祉産業としてはあり得るわけです。●社会が高齢化
日本人は画一的に考えるくせがあります。例えば、住宅団地は高齢化しているから、建て替えて若者を入れると言う。社会が高齢化しているのであって、団地だけが高齢化しているわけではない。住宅産業は地場産業が多いですから、地域の環境や人々の暮らしを守りながら活性化していく役割が大きい。そういう具体的なテーマを挙げて取りかかる必要がありますね。○鈴木
我々は、ある土地でマンションを建てるとき、その土地の歴史を調べます。神主さんに来てもらって勉強して、その地域の掃除もする。あるいは市長の話を聞いて、どういうビジョンを持っているのかなどを確認する。しかし、残念ながら全体的にはまだそこまで考えていないようですが。○村田
暮らしは、住まいがあって地域社会がある。地域とかかわれるような住まいをどうつくっていくかという発想を、これから強く打ち出していかなければならないと思います。旧住民の中に新住民を、「さあ来なさい」と言って「何々タウン」をつくっても、あつれきが起こるだけ。そこをつなぐコーディネートすらできていないから反目してしまう。○鈴木
板橋区でも今のお話のように、住民の半分を占める集合住宅と、地域住民関係が反目しがちな状態にあります。
旧住民に相当する町会は高齢化し、賃貸マンションや分譲マンションの方に若い30代の力持ちがいるわけです。これまで、町会が主体になって地域の自治をつかさどってきたわけですが、今は、いざというとき機能しなくなってきた。新しい地域の在り方を確立しないとどうしようもない。○村田
住宅産業界に地域をつくるという発想がないのではないですか。とにかくつくって売ってしまえばいいというだけで…。○早川
住むところを供給する産業は、地域社会が良くなることに貢献しなければならない。●仲介業者の役割○早川
「居住福祉」という岩波新書で「不動産業者の社会的役割」として、江戸川区と東京都宅地建物取引業協会江戸川区支部の仲介業者の活動を紹介しました。お年寄りが建て替えで転居したり、バリアフリーの家に住みたいなどというとき、宅建業者が家を見つけてきて、家主に「貸してあげてください」と説得し、それを区に知らせる。
区は転居費用、家賃の値上がり分も補助する形でした。孤独死などが心配だから、区役所と仲介業者が週に1回ずつ見回りをする。
地域社会のどこにどんな家があるかを仲介業者は知っている。みんなそれぞれに役割があるわけです。○鈴木
その取り組み、仕組みは、今では多くの自治体にも広がっていますね。○早川
宅建業者の努力の積み重ねが居住福祉産業の一角をつくっています。○鈴木
昔、家主さんはみんないい人だったような気がします。家賃が払えないとき、大家さんに謝りに行くと待ってくれた。ところが、システム化、合理化されて、不動産の世界も世知辛くなりました。
例えば、毎月家賃を持ってきてもらうようにすると、外国人の方の場合、いろいろなトラブルの相談やアドバイスができる。「日本で暮らすには」と。ところが、家賃が口座引き落としになって、保証会社が間に入って、となると会話もなくなる。昔は全部、大家さんと不動産屋さんの間で解決していました。●居住福祉と教育○早川
近代的な意味で、大家は親も同じだと。居住福祉産業というのは、そんなに難しい話ではないのです。身近な居住福祉という概念でとらえると、どんどん活動の場が広がっていくのです。○鈴木
その居住福祉を進めるための教育は、どう取り組むべきですか。○早川
私は神戸の大学を辞めてから長崎の大学に行きました。そこで「居住福祉」を対象に高校生に懸賞論文を募集しました。一等は埼玉県の学生でしたが、本当に感動しますよ、子どもの論文は。こんなにいいことを考えているのかと。また、「知事の決断」というブックレット。これは居住福祉学会の第1回大会で、鳥取西部地震の後に鳥取でフォーラムを開きました。今大活躍されている、当時の片山知事に名講演をしていただいた。
もう1件。日本ではなかなか居住福祉が浸透しないのですが、中国人はすごい。南京大学で居住福祉という講座ができ、私の教え子が専任の助教授として教えています。大連理工大の政治学の先生も新しい学科をと『居住福祉の理論的構築』という本を書かれました。
居住福祉が中国で広がってきているのです。●住宅産業の反省○鈴木
私はこれまでずっとマンションをやってきました。その経験や反省の中から思うのは、住宅産業を居住福祉産業にチェンジすべきだということです。
民主党政権になったこともありますが、まず国の政策を、住生活基本法から居住福祉基本法に変えることです。同時に、我々も住宅産業から居住福祉産業にチェンジしていく。まず国の政策をきちんと変えてもらいたいですね。○早川
変えろと言ってもなかなか変わらないから、先ほどの仲介業者ではありませんが、事実で示していくことが必要でしょうね。
家をたくさん建てているのは政府ではなく産業界です。住宅産業は生活産業としてものすごく大事なのです。下から変わっていかないとだめですね。●本当の価値は○鈴木
住まいの本当の価値は何なのか。駅何分で広いとか、頑丈だとか、耐震が、使い勝手が、築何年、どこのゼネコンが、設計事務所がどこだとかではなく、コミュニティとか、子どもたちの問題とか家族の問題とか、そういう価値軸をはっきり打ち出す必要があります。住まいの本当の価値はこうだと。
そうすると、今の建築基準法、宅建業法、公正競争規約あるいは中古住宅の査定、鑑定評価など、住宅に関する物差しが全部変わってきます。●地域経済にも貢献
スタンスを変えると、そこに無限のマーケットが出てくる可能性もある。「居住福祉全国改造計画」をやったならば相当な内需効果が出てきますね。○早川
居住福祉産業は地域経済の発展にも寄与します。神戸の復興に10兆円投資しましたが、全然閑古鳥です。行政は地場産業を殆ど使わない。大手企業が東京、大阪から来る。土工まで連れてくる。神戸では失業者が大勢いるのにです。それでは町は活性化しません。○柳内
これからの変化にとてもいい発想ですね。夢で終わらせないで実現したいですね。いろんな業種を集めて、マンション業界だけでなくて複合化して、居住福祉産業を立ち上げて政治に訴えていければと思います。●住宅保障の考え方○村田
いままでの住宅政策はハードのことしか考えてこなかった。住む人の暮らしがどこかに行ってしまい、住まいに私たちの暮らしを合わせるという人生を送ってきた。その結果、私たちは、どんな暮らしがしたいのかという発想が持てなくなっていますね。
国民一人一人も、自分はどんな暮らしをしたいのか、そのためにどんな家を選ぶのか、選べるいろんな家を、画一的ではない家がつくれる。
早川さんは「貧困はすべて住宅政策にある」と言われましたが、私も確かにそう思います。住宅は、特に個人の問題で捉えられてきて、自助努力で家を持つのが甲斐性みたいなことが言われました。ですが、それでは乗り越えられない人のためにどう住宅保障をするか。貧困政策の中に住宅保障というものが入っていないですね。そこに少し力を入れていくことで、居住福祉という理想が実現できるのではないかという気がします。○早川
まとめのお言葉(笑い)ありがとうございました。私が一番言いたかったことです。
予想以上にいい話に展開しました。鈴木さんのご提案もありましたが、この座談会を持たせていただいて、展望が開けてきたと思います。5月15日のフォーラムが、マイナーリーグからメジャーリーグにワンステージ上がりそうだ、新しい可能性が開けるということで、今日の座談会は、非常に勇気づけられました。
(おわり)□座談会出席者□日本居住福祉学会会長
早川和男氏福祉ジャーナリスト
村田幸子氏山一興産(株)社長
柳内光子氏(株)リブラン社長
鈴木静雄氏













