なぜ建て替えか--マンション再生・現実論(1) 原 雅彦
住宅新報 2010年1月5日 号 14面
老朽化するマンションをどう再生するか。住民の高齢化が重なり、大きな社会問題にもなっている。IAO竹田設計の原雅彦氏は阪神・淡路大震災を体験。その悲惨な現実を直視し、マンションの建て替えや耐震改修のコンサルタントとして数多くの体験を重ねた。その経験則から「マンションの建て替えは極めて困難」と断言する。では、既に500万戸以上のストックがある集合住宅の未来をどう描けばいいのか。マンション再生の現実論を語ってもらう。プロローグ
阪神大震災を体験
私がマンションの建て替えなどの業務にかかわるようになったきっかけは95(平成7)年1月17日午前5時46分、阪神・淡路大震災を引き起こす兵庫県南部地震の震度7という揺れで叩き起こされたことに始まる。我が家も避難家族に
この地震は初めて震度7が適用された都市型大地震で、死者6434人、行方不明者3人、負傷者4万3792人(重傷1万692人、軽傷3万3109人)であったと推定されている。
建物の被害は、全壊10万4906棟、半壊14万4274棟で合計約25万棟(約46万世帯)。一部損壊は39万506棟にも及び、避難を要した人たちは30万人以上に達したと言われる。
我が家も例外ではなく4人の避難家族となった。
集合住宅の設計分野では日本有数の事務所に所属する私としては、必然的に様々なお手伝いをさせていただくことになる。
同時に、当時日本ファイナンシャルプランナーズ協会のICFP・JAPAN西日本ブロック副ブロック長をしていたこともあり、同協会主催の被災者無料相談会を開催するための会場探しにも走り回った。
あれから10年以上の時間が過ぎ、その後も北陸や新潟県中越、東北で大地震に襲われている。にもかかわらず、建物の耐震性などに対する国民の意識はあまり変化していないのではないか。
この間に国は区分所有法の変更や、マンション管理士資格制度の創設などを行い、これから猛烈な勢いで社会問題化するマンションの建て替えや耐震改修のための対策を講じている。通常時における建て替えや補修に対応するマニュアルも国交省から提供された。
これと併行して、建て替えに関連する書籍も数多く発刊されている。しかしこれらの書籍は、建て替えの当事者である区分所有者(マンション住民)に対して書かれたものとしては難解であり、建て替えをビジネスとする実務家(専門家)向けの参考書と言える。
また、弁護士や不動産鑑定士といった専門家が建て替えなどの流れを法的な視点を中心に書いたものが大半である。そしてその多くは建て替えや耐震補強を区分所有者全体で決議して行うためには「ルールに則って順序良く進めて行く」ことを遵守しなければならないと指摘している。ルールに則る難しさ
しかし、建て替えの初期からマンション住民と関わる機会が多い私は「ルールに則って順序良く進めて行く」こと自体が大変な難関であり、そのことをマンション住民(社会)がしっかりと認識していないことこそ、耐震改修や建替えなどがうまくいかない要因になっていることを指摘したい。
「ルールに則って順序良く進めていく」法的手順をマンション住民に伝えるのが専門家の仕事であって、居住者の最重要課題はほかにある。専門家にとって重要なことは居住者の視点から、マンションの建て替えや耐震改修を考えることだ。
「間違った入り口から入ったら、成功するものも成功できない」という現実を直視しなければならない。マンション住民が安全で平和に仲良く暮らすためには何が重要なのか、各居住者が求めていることは何なのか、住民一人ひとりの満足と安心をいかに実現するかという視点から挑む実務家こそ求められている。
私はこう思う。法律と現実に開きがあれば、法律を再検討することが必要だ。また、「建て替え」は各自の夢を実現する手段としては、いくつかある選択肢の一つに過ぎないと認識することこそ肝要である。
いずれにしても耐震補強や建て替えは一朝一夕に出来るものではなく、普段からのマンション管理組合の活動の在り方が非常に重要になる。
一つの目的に向かっては強固なコミュニケーションづくりが問われるからである。













