紙上ブログ 悪徳不動産屋の独り言 賃貸現場の喜怒哀楽 第32回 坂口有吉
住宅新報 2009年12月22日 号 5面
入居者支援
放火しようとした青年
転職の世話かなわず、悔い
私がこの仕事に就いてまだ間がない頃の話。管理しているアパートが放火されかかったことがある。
店番をしていると、ひょっこり無口な青年が来店した。見るからに線が細そうで気弱な感じの青年は、性格も暗い感じで、言葉がとても重かった。
私が何か質問しても、返事が返ってくるのに相当な時間が掛かる。最初は何て頭の回転が遅い男だろう、と呆れていたが、話しを進めていくうちに青年の幼少期の壮絶な環境が分かってきた。仕事決まらず苛立ち
青年は小学生の頃、両親を相次いで病気で亡くしている。その後、歳の離れた姉と二人、親戚の家を転々として面倒を見てもらい、姉が結婚すると、その新婚の2DKのアパートに引き取られて暮らしていた。
姉は優しい人だったようだが、その間に相当に過酷な体験を重ね、人の顔色に怯えながら、言葉を慎重に選んで発するようになってしまったようだ。
出身は青森の外れで、高校を出た後、家電量販店の店員をしていたが、その言葉の遅さ、である。先輩たちからも苛(いじ)められ、お店を辞めたい、と思っていたようだ。
それで、私も職探しを手伝う約束をした。知り合いの社長を紹介して一緒に面接を受けに行ったものの、やはり断られてしまった。
しばらくしてお店を辞め、収入の道は途絶えたが、家賃だけは振り込んできた。一方で、私も別の会社を当たっていたが、どこも採用には至らなかった。青年は泣いていた
その矢先に、自分の住むアパートに新聞紙を丸めて火をつけようとしているところを隣人に見つかったのだ。
連絡をもらって直ぐ駆けつけると、青年は泣いていた。
私は、青森のお姉さんには連絡したが、警察には通報しなかった。翌日、お姉さんが直ぐ飛んできてくれたし、青年の気持ちは痛いほど分かっていたから。仕事が決まらず苛立ち、紹介してくれない私への抗議もあったのだろうと思う。
青年は程なく、お姉さんと青森に帰ったが、その後のことが気になって1年ほどして青森に電話してみると、とてもつらい事実を告げられた。
「弟は精神病院に入退院を繰り返してます」と……。もっと何かしてやれなかったかと悔いが残った。
(坂口有吉不動産・社長)













