不動産取引現場での意外な誤解 賃貸編(6) 始期付き賃貸借契約で、始期到来前のキャンセルはできますか
住宅新報 2009年11月3日 号 6面
Q
当社は建物賃貸借の仲介業者ですが、建築中のマンションなどの賃貸の募集をする場合、通常、完成後の然るべき日を入居時期と定め、その入居時期を「始期」として賃貸借契約を締結します。
ところで、その「始期」付の契約というのは、停止条件付の契約より強固なものであると言われていますが、それはなぜですか。A
停止条件付き契約の場合は、その条件が成就するかどうかが分からないということが前提になっていますが、「始期付」の場合には、その「始期」(期限)の到来が必ずあるということから、停止条件付きのものより、実現性が強固なものとして取り扱われているのです。Q
ということは、賃貸借の申込者が、いったん始期付の賃貸借契約を締結した以上は、「始期」が到来するのは確実なのですから、その間に契約をキャンセルすることは事実上できないと思うのですが、どうなのでしょうか。A
キャンセルすること自体はできますが、既に契約が成立している以上、貸主に対し、それなりの損害賠償義務が発生するということになります(民法415条)。Q
それなりの損害賠償義務が発生するということは、具体的にはどのような義務が発生するのでしょうか。A
貸主に通常考えられる損害としては、そのキャンセル物件については、これから改めて入居者募集をするということになりますので、そのキャンセルの申し出の日から「始期」まで、ある程度の日数があるのであれば、これから行う広告宣伝のための費用などが中心になると思います。
ただ、「始期」まであまり日数がなかったり、既に「始期」が到来した後のキャンセルだということになりますと、賃貸借契約書に記載されている「解約申入れ条項」との関係が出てきます。
つまり、「始期」の到来前のキャンセルであっても、契約は既に成立しているわけですから、その解約申入れ条項に定められている「1カ月前の予告」ということからくる「賃料の1カ月分」という実質的な違約金条項の適用があるのではないかということなのです。
これらの点について、まず言えることは、キャンセルの申し出が「始期」の到来後であれば、当然契約の効力が生じた後ですから、「その賃料の1カ月分」というペナルティーが有効なものとして認められると思います。
しかし、キャンセルの申し出が「始期」の到来前であった場合は、原則として広告宣伝費などの実費的な損害賠償請求以外は難しいのではないかと考えられます。
(渡邊不動産取引法実務研究所
代表
渡邊
秀男)













