知って得する建物の豆知識(24) 「うだつ」と「しのぎ」 規駆術が不可欠
住宅新報 2009年11月17日 号 4面
最近、四文字熟語がゲーム感覚で流行(はや)っていますが、諺(ことわざ)はあまり人気がないようです。若い人に諺を言っても意味が分からないことが多く、分かっても「「オヤジギャグ」で片付けられてしまいます。何でも新しいことはすべて良いことで、古いことは唾棄(だき)すべきことのような風潮も困ったことです。『うだつ』の由来は
「あの人はうだつのあがる人だよ」とか「うだつのあがらない万年編集者」のような使い方がされる「うだつ」とは建築用語に由来しています。
「うだつ」は漢字で「木へんに悦のつくり」と書きますが、様々な当て字があり「卯立」「宇建」などとも表記されます。
うだつとはどのような部位かというと、昔の商家は隣接する建物の間に路地のようなものはなく、壁と壁が接するように建築されていました。壁は土壁になっているため、防火性は期待できるものの屋根と外壁部は火の粉や炎によって容易に延焼する恐れがありました。
そこで、屋根の境目の壁を高く上げたり(これが後の防火壁の考え方になった)、隣家との外壁の間に凸部を設けたりして延焼を防ぎました。この外壁の凸部をうだつと言い、うだつがあがるとは立派な家を建てられるほどに出世した、という意味合いに使われるようになったのです。
伊予街道にほど近い徳島県美馬市脇町はこのうだつの町として知られており、立派なうだつのあがった町並みが現在も保存されています。
また、美濃市美濃町にもうだつのある町並みがあり、ここは都市景観大賞「美しい町並み大賞」に選ばれています。他の地方にもうだつのある建物は少なからずあり、当時は防火的意味合いと意匠的な意味合いで、全国的にうだつが流行していたものと思われます。『しのぎ』は棟の頂部に
さて、よく勝負事の決着がなかなかつかず、揉(も)み合うことを「しのぎ(鎬)を削る」と言います。この「しのぎ」とは何でしょう。
これも建築用語から生まれた言葉で、建物の棟(むね)の頂部の加工を指しています。棟木(むなぎ)の面は屋根を掛けるために斜めの面を造ります。この斜めの面を削り上げていくことを「しのぎを削る」といい、両方の面が譲らずに競り合う様子を指したものから転用されたと思われます。
このしのぎは、武士が斬り合いする時に刀の刃と刃が渡り合うさまを表す時や、茶道で風炉の灰を寄せて山を造るときの角度を表す意味にも使われます。
うだつにしてもしのぎにしても、これらを製作するためには「規躯術(きくじゅつ)」が
不可欠でした。規躯術とは現在でも大工が利用している「指金(さしがね)」の使い方で、早くも奈良時代には規躯術の木版本が出版されています。
規躯術は中世に入ると格段に進歩し、論理的な裏付けも発達し、神社仏閣などの複雑な構造体や意匠的な組み物製作には、大いに利用されました。その後は論理よりも形を作ることに力点が移り、使い方だけが伝承されています。
しかし、優れた論理に裏付けられた指金技法は、今日我々が目にする優美な日本建築の基になっているものです。
(建築家・中村義平二)













