高齢家主と学生をマッチング 地域活動参加で家賃を低廉化 若者と育むコミュニティ
住宅新報 2018年1月9日 号 19面

奨学金受給者の推移(日本学生支援機構の資料から作成)
今年度から「給付型」の奨学金制度が始まった。意欲や能力があっても、経済的な理由で修学を諦める、もしくは困難な学生たちを助けて、進学や進級を後押しするのが狙いだ。しかし、同制度は始まったばかり。長引く景気の低迷でアルバイト代が減り、多くの学生にとり、奨学金の重要度は一層高まっている。
日本学生支援機構によると現在、学生の2.6人に1人の割合で同機構の奨学金を利用する。10年ほど前ならば4人に1人。利用者は約1.5倍に膨らんだ。
特に、返済時の負担が大きい「有利子」で制度を利用する学生が増加の一途をたどる(表参照)。無事に卒業しても、就職後に待つ返還義務に生活費が圧迫され、社会問題となっている。
こうした背景に、地域活動の参加を条件として、学生に低廉な家賃でまちに住んでもらい、高齢化が進む家主や地域との交流を図る取り組みが各地で始まっている――。
まちの書生に
東京大学やお茶の水女子大学の学究の徒らが集まる東京都文京区本郷。明治の頃から「書生」の街として知られる。今や商店会や町内会のにぎわいは、若者の姿が居なくなり、店主の後継者不足などで次第に希薄化し始めている。
こうした現状に危機感を持った人たちがいる。下宿人や若者たちのにぎわいを取り戻そう、目立ち始めた空き家や空室を有効に活用できないだろうか。そう考えた。
立ち上がったのは商店主たちで組織するNPO法人「街ing本郷」だ。下町らしい魚屋の主人で、代表理事を務める長谷川大氏は、「大学の近くに住みたい若者の希望を叶え、空室を持つ高齢な家主の悩みを同時に解消できる」として、学生たちを街に呼び込んでいる。名付けて「〝本郷・書生生活〟です」と長谷川氏は続けて説明する。いわゆるまちの「書生」として、低廉な家賃で住まいを提供する条件として地域活動の参加を促す。防犯面でも不安だった高齢の家主と学生が共に孤独になりがちな生活をサポートし合って、共生する。14年度には国の助成事業の対象となり、「ひとつ屋根の下」のプロジェクトとして発展させ、この仕組みは評価され、後に京都府でも導入されている。
早稲田大学でも、今年4月に入学する地方出身の女子大学生を対象として、同様な取り組みとなる「早稲田女子学生〝家賃応援割〟プロジェクト」をスタートさせた。
簡易なお手伝いで
早稲田大学が100%出資する不動産会社が物件を仲介して、経済的に厳しい学生たちの住まいを家主が社会貢献活動として支援する。ここでも女子大学生たちは、大家や管理会社の希望によって、過重にならない程度の簡易な〝お手伝い〟で建物管理に参加する。例えば、散らかったゴミを拾い、自転車の並びを整理するといった類だ。
女子大学生たちはこれらのお手伝いで、通常よりも10%以上も安い家賃で住まいを提供される。大家にとっては空室対策や、入居審査を早稲田のOG会「稲門女性ネットワーク」が行うため、優良な入居者が期待できる。
こうしたまちの一軒家やアパートでの取り組みの一方、公的な「団地」でも、大学生たちが比較的安い家賃で居住する取り組みが始まった。神奈川県住宅供給公社が管理する「浦賀団地」(神奈川県横須賀市)がその舞台となる。
高齢者の健康支援
しかし、ここでの取り組みは、前述の事例と同様に地域活動などの参加を条件に低廉な家賃で住まいを提供することは同じだが、もう一つ、工夫がある。
高齢化が進む団地居住者の「健康寿命を延伸するため、福祉を学ぶ大学生たちに住んでもらい、地域に元気をもらう」(同公社高齢者事業部運営課課長の染谷良太郎氏)。この大学生とは、同公社と連携協定する神奈川県立保健福祉大学の女子大学生たちだ。
看護や栄養、リハビリテーション、社会福祉を学ぶ彼女たち「団地活性サポーター」と同大学が同公社と協力し、団地内の健康調査を通じて健康メニューを開発。居住者に提案し、介護予防を促進させていく取り組みとなる。
既に入居した女子大学生たちに話を聞くと、「一人暮らしから引っ越して来ましたが、ここは温かいコミュニティがある」「低廉な家賃は助かります。定期的に地域の方々と交流する機会をつくりたい」と、地域に溶け込みながら、高齢化する団地周辺の地域を活性化させる一翼を担う。
一つの仕組み、工夫から
ここでは、彼女ら学生たちに一方的に助けてもらうわけではない。「実際に会うことで高齢者福祉の勉強になります。何よりも、コミュニティ活動がしたくて入居を決めました」と女子大学生の一人が語るように、机上では分からない福祉について実地で学ぶ機会ともなっているからだ。
若者が少なくなってきたまちに、触れ合いが生まれ、世代を超えた交流が育まれる。にぎわいが起こり、空き家や空室も解消される。コミュニティの魅力を再び取り戻す。一つの仕組み、工夫やアイデアがこうした願いを実現する。













