よく分かる不動産証券化とビジネス活用<第67回> 不動産証券化の現状と将来展望(33) 有識者に聞く モルガン・スタンレー証券 坂口英治氏
住宅新報 2009年8月11日 号 3面
(田辺)
グローバルな投資家から東京を見るとどうでしょうか。(坂口氏)
東京は投資利回り(諸費用控除後のネットベース)で6%に届いていないので、やはりもう少し価格調整が進まないと、海外の資金が本格的に流入するようにはならないでしょう。また、日本やドイツのように輸出に過度に依存する経済構造を持つ国は、他国の経済状態が良くならないと景気は回復しにくいとも見られています。(田辺)
そうなると、日本の不動産投資市場に海外の資金を本格的に呼び込めるようになるまでには時間がかかりそうですね。(坂口氏)
実物不動産の投資利回りが現在の水準に止まっていると、エクイティ投資は魅力に欠けます。アジアの年金や富裕層の中には、エクイティ投資に前向きのところもありますが、IRR(投資利回り内部収益率)で20%以上を要求してくるケースが多いので、日本の不動産に投資する場合は、レバレッジ(借入金を増やすことによって、自己投資部分の利回りを引き上げる手法)を高くしないと、要求を満たすことは困難です。しかし、現在の金融環境で、大量のデットを調達することは容易ではありません。
今、日本市場で面白いのは、デット(借入金)への投資です。タイトな金融環境を背景に、デットのスプレッド(貸出金の利鞘ざや)は極めて高い水準にあります。LTV(借入比率)を抑制すれば、それほど大きなリスクを取らずに高いスプレッドを得られますし、市況が回復しローンの対象となっている不動産の価値が上昇すれば、デットの価値も上昇するのでキャピタルゲイン(売却益)を狙うことも可能です。(田辺)
金融危機を経て、投資家の運用スタンス・方法に変化はありましたか。(坂口氏)
海外の年金やソブリン・ウェルス・ファンドは、潤沢な資金を持っているので、不動産に対する投資を止めることはありませんが、不動産ファンドに対する投資には慎重になっています。もともと、海外の年金などが不動産ファンドに投資しているのは、その地域に拠点がないため、十分なマーケット情報を得ることができず、競争に勝ち抜いて良質な物件を取得することが難しかったためです。しかし、今は買い手不在の状況なので、競争しなくとも良い物件を購入することができるようになりました。そこで、各地域における熟練したアセットマネジャーと提携し、その年金専用のセパレート・アカウント(分離勘定)で資金を運用する試みが増えるようになってきました。
国内の年金は基本的に、低レバレッジで実物不動産(コア物件)に投資しようとしているようです。(田辺)
坂口さんはJ-REITの発行する証券の引受業務にも携わっておられます。J-REITの投資口価格(株価に相当)が一時に比べると持ち直してきたとはいえ、低迷を続けている理由はどこにあると思いますか。(坂口氏)
金融危機やその後の景気後退の影響を受けているのはもちろんですが、REITが自助努力でリストラを行う仕組みがないことも、大きな要因になっていると思います。例えば、REITが経費削減によりリストラをしようとしても、運用を委託している資産運用会社に支払う運用報酬を減らしたり、IR(投資家向けリレーション)費用を削減したり、修繕費を削るぐらいしか方法がありません。いずれにしても、その効果はそれほど大きいものではなく、増加した利益を全部分配してしまうと、メリットを享受するのは投資家になり、REITの財務体質改善にはつながりません。
本来、必要とされるのは、キャッシュフローのリストラです。すなわち、REITが賃貸事業から得るキャッシュフローの配分を変えることです。キャッシュフローの配分先は大きくは、取引先(購入費用など)、税務署(税金)、債権者(元本、金利など)、投資主(分配金)、自社(内部留保利益)などに分けることができます。このうち、通常の株式会社であれば、債権者、株主、自社への配分を変える選択権を持っています。
(つづく)













