東京・代官山に見るまちと住宅の変遷 高級住宅街、熟成の域 「同潤会」再開発から10年 ブランド、資産価値も向上
住宅新報 2009年5月12日 号 1面
1999(平成11)年、東京・代官山の超高層タワーマンション「代官山アドレス」のモデルルームは、空前の人出でごったがえした。第1期分譲(135戸)の競争倍率は平均30倍、最高331倍を記録。来場件数は同年度マンション・モデルルーム入場者数トップの8000人と、社会的にも「代官山ブランド」の存在を世に示した形となった。翌年、「マンションの憲法」であるマンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)が成立。「代官山アドレス」の登場は、同法の理念の延長線上にある、「終(つい)の棲家(すみか)」としてのマンションの在り方を示すものとして注目された。10年を経て、代官山を取り巻くマンションと街づくりの周辺を概観する。
閑静な住宅街と高級ブティックなどが立ち並ぶ東京・代官山。ウォーカープラスが今年2月にインターネットで調査した「住みたい街ランキング2009」での東京編で、代官山は「吉祥寺」「自由が丘」に次いで第3位。「高級感がある」「買い物に便利」などの項目で高い数字を示しているのが目に付く。
渋谷区の不動産業者の一人は「代官山では、中古分譲マンションの多くで、中古売買価格の下落がほとんどなく、賃貸相場についても手堅い。『ここに住みたい』と決め打ちしてくる居住希望者が多いことも特徴で、隣接の人気スポットである中目黒と比べてもグレードは相当高い感じだ」と話す。
69年、複合施設「代官山ヒルサイドテラス」(A、B棟)が完成して以降、代官山は「都内屈指の高級住宅地」から「豊かな文化を感じる街」としても、注目されるようになった。
00年竣工の代官山アドレスは、関東大震災の復興を目的として1927年に竣工された同潤会代官山アパート(36棟・総戸数345戸)の老朽化に伴う建て替え事業として、誕生したものだ。
83年に代官山地区市街地再開発準備組合が発足。02年に都市計画が決定し、97年に着工。東急東横線・代官山駅前の約1.7ヘクタールの広大な敷地内に、街のランドマーク的存在の超高層棟「ザ・タワー」(地上36階建て)と、多目的広場の「アドレスプラザ」、レストランなどを含むショッピングゾーン「ディセ」、「スポーツプラザ」などからなる複合施設が生まれた。敷地内の公園には、同潤会代官山アパート内にあったヒマラヤ杉やケヤキも移植された。「維持管理」も高評価
10年前に行われた同マンション購入者の属性調査を見ると、入居者は40-50歳代が主体だが、70歳以上の高齢居住者などもいた。
とりわけ、超高層タワー棟では当時珍しかった「ペット可」も、人気を呼んだ一因だったという。
中古マンションの調査・評価情報サービスを行っている「マンション評価ナビ」でも、代官山アドレス・ザ・タワーは築年数を経過しているにもかかわらず、「拠点性」や「維持管理」などで高い評価を獲得。「タワーマンションの走りということもあって、エントランス部分などは最近の新築物件よりこじんまりしている」という評価がある一方、代官山の持つ「非常に流行に敏感でありながら、落ち着きある雰囲気を好む層には最適な物件である」ことなどが評価されており、いわゆる「代官山ブランド」が物件にプラスアルファの魅力を与えていることが分かる。
街の変遷について地元の自営業者の一人は話す。
「これまで商店街がなく、生活には比較的不便だった場所に代官山アドレスが出来たことによって、街が住みやすくなった。当初は同潤会アパートがなくなることへの寂しさもあったが、いざ建て替えが行われると、地元の活性化や地域発の情報発信の動きなどもずいぶん進んだ。この10年で『自分たちの街をつくっていきたい』という気持ちが強くなったことも事実」
代官山アドレス竣工後も、同地域では、07年グッドデザイン賞を受賞したデザイナーズマンション「Brilla(ブリリア)代官山プレステージ」などが竣工。街との調和を目指した建築物によって、より街の魅力を高めるという「相乗効果」も出てきているという。「『信頼』が不可欠」
そんな中、「代官山ブランドと街の明日を考える」ことを主眼とした「フォーラム代官山-代官山再考」が5月2日、東京・代官山ヒルサイドテラスプラザホールで開かれた。
世界同時不況をはじめとする時代の変革期の中、地元ブランドを見つめ直すことで、その価値をマネジメントする体制づくりなどを考えようと、地元のNPO団体などが開いたものだ。
座談会では、地元の商店主やNPO理事長らが自らの体験などを通じて、代官山の将来像について言及。ブランドの価値を共有しながら、本格的な商業ネットワークを図っていく必要性などが指摘された。
この中でNPO代官山ステキ総合研究所理事長の岩橋謹次氏は「代官山ブランドは一朝一夕に作り出されたものではなく、先人が個々の努力で地道に作り上げてきたものであり、その価値はお金で買えるようなものでもなく、またその魅力を維持することは大変なことだ。居住者の幸福を第一に考えながら、この街の良さである信頼、いたわりの気持ちを大事にしていくことが不可欠」と話した。
2012年の副都心線延伸などにより、代官山を取り巻く環境は今後大きく変わっていく。しかし、地域に愛着を持つ居住者が、世代間や業種といった垣根を越えてネットワークを構築していくことが、新たな街づくりの推進力となっていくという指摘もある。
代官山アドレス居住者のある会社員は、来年で定年を迎える。「マンション内の高齢化も進んでいるが、これまで培ってきたコミュニティを生かして、好きな街で貢献しながら、第2の人生を充実させていきたい」と笑顔を見せる。













