『素材』の力 --住まいを極める (下)
住宅新報 2009年5月26日 号 1面
日本人の感性にマッチ
住まいづくりの現場では今、木や土などの自然素材に対する関心が高まっている。ユーザーは素材に関する深い知識と正確な情報も求めている。今後、供給者側はそうした有意義な情報をいかに的確にユーザーに伝えられるかが勝負となる。
一級建築士の中村義平二氏((株)空間構造、東京都世田谷区)は、最近の自然素材に対する関心の背景にあるものとして、『エコロジー』と『健康』を挙げる。深い知識求める
中村氏は語る。「例えば『木』一つを取ってみても、どういった素性の木かを問われる時代。どこで育ったのか、なぜこの木を選び、顧客に勧めるのか、どのように健康・環境に影響するのか。それを適切に説明することができれば、差別化につながる」。
ヨーロッパのレンタカーサイトの中には、車種や色、サイズに加えてCO2排出量が記載されているものもあるという。どのくらい環境に影響を与えるのか、そういった点も顧客がレンタカーを選ぶ大きな要素となりつつあるようだ。
中村氏は、「住まいの素材についても同様の時代が来るだろう」と予想する。
そして「住宅を建築する際に仕様書があるのと同じように『環境仕様書』を作成し、顧客に提示してもよいのではないか」と提案する。
これからは、従来より一歩も二歩も踏み込んだ情報提供が必要になりそうだ。業界にとって重要なのは、素材そのものの知識とそれを伝える力。あやふやな情報では顧客は納得しない。
ただ、同氏は「今、住宅の素材に関心が集まっていることも、特別なことではない」と指摘する。
「これまでの住宅づくりを振り返ると、いつの時代も機能やデザイン、素材の追求を繰り返している」と話す。機能に行き詰るとデザインに向かう。そしてデザインを追求し、閉塞感が出てくると、今度は素材そのものに向かうという循環だ。「バブルの頃の素材に対する関心は、大理石などステータス感の得られるものだったが、それが今は、健康やエコになっている」。最新技術を研究
東京都国立市の住宅街の一角に建てられた「サステナブルデザインラボラトリー」。06年に開設した積水ハウスの研究施設だ。見た目は、普通の戸建住宅。日本の伝統的な生活の知恵を生かしつつ、環境への負荷の少ない最新技術も取り入れながらサステナブル(持続可能)な住まいと暮らしを研究している。
所長の木村文雄氏によると「開設に当たって考えたキーワードは経年美化」。経年美化は、年月を経ることで味わいが出て美しく変化すること。日本にも、一つのものを大切に世代を越えて使い続ける文化があった。木村氏は「それをもう一度取り戻すべきではないか。そのためには素材が『本物』であることが重要になる。表面上の美しさではなく、素材が本来持っている魅力を活かす使い方が大切なのではないか」と話す。同氏はまた、世界の新たな動きとして「バイオミミクリー」を挙げる。自然界の動植物を模倣することで、現在の問題を解決していこうとする学問だ。自然の法則を活用
ドイツでは蓮の葉を研究することで、外壁用塗料を開発した事例もあるという。葉の表面は微細な凸凹によって雨水が球状になって汚れとともに流れ落ち、清潔で乾燥した状態に保たれる。その自己洗浄機能を取り入れたものだ。
「自然の産物でなくても、自然界から理屈や機能を学びとったものであれば、それは真理であり『本物』と言えるのではないか」と今後の方向性を指摘する。
「長期優良住宅の普及促進法」が6月に施行される。今後の大きな流れとして、いいものを作り、きちんと手入れをして、長く大切に使うという方向が生まれようとしている。
快適に暮らしたいというニーズは今、昔から使われてきた自然素材の力に注目する。それは日本人がその感性にマッチした安らぎを求め始めた証しであり、住まい探求の新たな原動力になろうとしている。
(井川
弘子)













