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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇56 増える空き家相談 地域再生担うプロ集団 業界の存在感示すとき

 空き家とは使われなくなった家のこと。さりとて、粗大ゴミとして出すこともできない。いやいや、ずっと固定資産税を払い続けてきたのだから、〝特定粗大ゴミ〟として自治体に申請すれば、自治体には引き取る義務があるのではないか。

問題の深層

 空き家・空き地など所有者不明物件の発生を予防する相続登記の申請義務化が24年4月1日から施行される。もともと権利と義務は一体だから、相続登記を義務化するのであれば、国は国民に不動産の相続放棄の権利を認めるべきである。

 こうした批判に応えるためか、21年4月に「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(相続土地国家帰属法)が制定された(23年4月27日から施行)。しかし、この法律の条文を読むと、国家に帰属させるためには様々なかつ厳格な要件が課されていて、実際に国に帰属させるのは〝至難の業〟である。しかも、幾多の条件をクリアして最終的に承認された場合でも、10年分の土地管理費用相当額の納入が必要というのだから国はよほど受け取りたくないらしい。

 しかし、そもそも国家は国土と国民と国家主権からなるものだ。国民の誰も欲しがらない土地は国家に帰属させるという思想なくして所有者不明土地をなくす方法などあり得ない。

1500名輩出

 空き家問題に積極的に取り組む一般社団法人全国空き家相談士協会(林直清会長)の第8回定時社員総会が7月26日、東京・杉並の大幸ホールで開かれた。同協会は15年5月に設立され、これまでに約1500名の認定空き家相談士を輩出している。今期も約200名の受講者を見込む。 冒頭あいさつした林直清会長は「コロナという逆風で一時は大変な状況になったが、認定講座は70回を数えるところまできた。ただ、我々はやはり、空き家相談をビジネスにつなげていかなければならない。今後はそのためのノウハウ蓄積に力を注ぎたい」と抱負を述べた。

 同協会専務理事で、このほど同協会の母体でもある全国不動産コンサルティング協会の会長に就任した米田淳氏は総会終了後、筆者の取材に対し次のように語った。

 「空き家相談の件数は全国的に年々増え続けている。その多くは手放したいと思っている人たちだが、何をどうしたらいいのかが分からない。空き家の処分には仏壇の処理や、解体費用をどうするかなど多くの問題があるからだ。再生したいというケースもたまにあるが、そこでも費用の問題がある。だから、我々の役割は相談者の希望を聞いて、そこに至るまでの道筋をつけてあげることだ。成功事例も既に多く出ている」

一丁目一番地

 相談者(エンドユーザー)にしてみれば、空き家に関する相談が気軽にできる不動産会社が地元にあって欲しいと思うはずだ。できればその発生防止策も含めて。  

 しかし、住宅を買うとか売るとかという方針がはっきりしているときでさえ、不動産会社の敷居は高いのに「高齢の親が一人で住んでいる今の家を将来どうしたらいいのか」といった曖昧模糊とした相談を持ち込める不動産会社は少ない。

 そこで、「空き家に関することなら何でもご相談ください。当社の空き家相談士が対応致します(予約受付中)」という看板があれば、多少なりとも敷居を低くする効果があるのではないか。

 不動産業者にとっても、空き家問題は目の前の空き家をどうするかといった個別の問題ではない。今後、地域に空き家が増えていくのは必至で、それへの対応如何が地域の発展を左右する。

 更に言えば、それを〝負動産〟と見るか、〝宝の原石〟と見るかの目利きが地元における会社の存在感を示すことにもなるだろう。地域から逃げ出すことのできない地元不動産会社にとって、空き家問題は「地域の再生」と同義語であり、自社存続の〝一丁目一番地〟でもある。