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売却新ニーズ (下) 「オンライン買取」 住み替えの促進担うか 売却潜在層の開拓に手応え

 「より早く、より高く」という顧客の売却ニーズに応える『オンライン買取』。前号では顧客と買取会社を直接つなぐマッチングサイト「インスぺ買取」を例に、顧客チャネルの拡充を目指す不動産会社の狙いを紹介した。今号では不動産プレイヤーの立場で取り組む事業者の狙いや戦略も交え、顧客目線で〝分かりやすい〟売却活動を推進する意味と可能性について考えたい。

 買取再販業のすむたす(東京都目黒区、角高広社長)は、テクノロジーを活用したシンプルで明確な売却活動の構築を目指す。同社が提供する「すむたす買取」はAIが最短1時間で買取価格を提示。そのまま最短2日間で売却を可能とする不動産買取サービスだ。対象は東京23区の居住用マンション。間取りは2~3LDK、価格帯は3000~4000万円のファミリー向けが多く、流動性が高い物件は取引相場の9掛けで買取できるという。エンド顧客は子供の成長などによる住み替えが全体の7~8割で、相続や転勤等の理由を大きく上回る点は「インスぺ買取」とも共通する。18年10月のリリース以来、累計売却査定件数は2900件、同査定金額は800億円と右肩上がりだ。

 同社の買取物件が比較的築浅なのは、仲介手数料等を不要とする直接仕入れ・販売の仕組みを構築することで、工事費用による収益追求の必要がないため。買取用価格査定を地場仲介会社に無料提供する「すむたす買取エージェント」でオフライン顧客との接点を強化すると共に、同業の買取再販事業者の物件掲載料と買主の仲介手数料を無料とした販売サイト「すむたす直販」という独自の出口戦略で、主力の買取再販事業で収益化していく狙いがある。

 同社の角社長は「当社は『早期売却』に応えるサービス。貸す、高く売る、投資用などのニーズは、得意な他社に任せることが顧客と市場のため」と共栄の姿勢を強調。「どこよりも手軽な買取を強みに売却検討時にはまず買取査定を利用するというユーザー行動をつくる。売却活動の一歩目を担い、『売る』『売らない』の二択では動けなかった潜在層のニーズを開拓していく」(角社長)と意欲を示す。

コロナで〝売り〟強まる

 両サービスに共通するのは、売却の入り口段階で買取査定を一般化し、その先の売却手段選択の指標となることを目指す点。また、エンド顧客の過半数がポジティブな住み替え手段として、売却期間と価格が分かりやすい早期売却に注目している点だ。

 新型コロナの感染拡大下では不動産価格の下落を見越したエンド顧客が即時反応。「すむたす買取」の売却査定件数は1月の200件から2月は300件、3月は400件と増加した。「インスぺ買取」も2月、3月の利用件数がそれぞれ1月比の2.3倍に増加しており、東峯社長は「市況悪化のタイミングにオーナーチェンジ物件が多数登録され成約した。個人投資家はもちろん、不動産会社保有の投資物件も売りに出していることが多くある」と説明する。

 また、どちらも自社で完結しようとせず、健全な競争を見据えている点も興味深い。「インスぺ買取」は高額買取につながる売主目線を貫きながら、買取会社のコスト負担等を削減。入札形式のため企業規模で有利が決まるものではなく、地場会社の積極的な利用も多いという。同サービスに参画するセンチュリー21・ジャパンは「リースバックも含め、買取に強い企業というイメージを顧客に定着させる狙いもある。強化中のシニアビジネスなどで新たな売却ニーズの獲得に生かす」と将来的な戦略を見据える。

 売却活動のすべてが非対面で完結するものではない。価格や売却期間を含めたオンライン取引のシンプルさがかえって売却のコア層である中高年世代に〝使いにくさ〟〝不親切さ〟として映るケースもあり、オフラインやアナログな手法で理解浸透を図っていく課題もある。ただ前号で価値住宅の高橋正典社長が指摘したように、エンド顧客の売却姿勢が明確になることで仲介会社の対応も鮮明となる。その意味でもオンライン買取の普及には「いざ売りたい」というタイミングで二の足を踏む状況を解決すると共に、これまで顕在化しなかった住み替えニーズを高める効果も期待できる。既存住宅流通活性化の一役を担っていくのかもしれない。(佐々木淳)