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大言小語 春の訪れ

 少しずつ春めいている、ような気がする。冬から春への胎動には生物が進化の謎を隠しているかのような神秘な匂いがある。春から夏へのやわらかな移ろいとは違う、なにか新たな世界が突然出現してきそうなときめきがある。

 ▼昨今の企業による不正や不祥事続出の背景にはなにがあるのか。消費者が厳しい審判を下せば企業倒産も不思議ではない。ダーウィンの進化論を引用すれば、弱肉強食と生存競争が極みに達し、企業社会の自然淘汰が始まったということか。いや、〝自然〟という言葉は人間社会の進化論には適さないだろう。企業が生き残る条件が資本主義の長い歴史を通して徐々に変化し、今は唯一「消費者保護」という企業理念だけになってしまったということか。

 ▼不動産業という産業が消滅することはない、と思う。ただし、スマホを通していらなくなった住まいをフリーマーケットで販売する市場などは誕生する可能性がある。その場合、これまで媒介業を営んでいた企業群が別種の不動産業を立ち上げているかもしれない。

 ▼何万年前までの人間の本能には、寒い冬には家にじっと閉じこもってまったく働かない慣習があったという。現代人が春の訪れに心ときめくのは、そうした本能の名残りなのか。春の予感には、目覚めたら今まで見たことのない世界が目の前に出現しているかもしれないという〝危険な匂い〟も含まれている。