総合

社説 消費税に翻弄された1年 豊かさも公平に分かちあう

 今年の住宅業界は、消費税増税を控えて生じた駆け込みの反動減に明けて、消費税増税の延期で幕を閉じた。まさに消費税に揺さぶられた1年だった。10%への再引き上げを視野に入れて、当面の事業戦略を描いていた住宅各社は肩透かしを食らった格好だが、延期決定に対しては本音では安どしているところだろう。増税の理由とされる財政再建は最優先の政策であり増税反対論も影を潜めているが、結果的に増税と延期に最も翻弄されたのが生活者だったことを思うと、一連の引き上げをめぐる経済見通しの甘さには大いに疑問が残る。今後、軽減税率の適用についての議論も進む方向だが、まずは国民生活ありきの原点に立ち返り検討がなされてしかるべきだ。

再び駆け込みと反動

 思い返すと、89(平成元)年に導入された消費税をめぐっては、そもそも住宅が消費税の課税対象なのかという根本的な議論が巻き起こった。そうした議論を見過ごすかのように、税率3%で導入された翌90(平成2)年はバブル経済の勢いで160万戸台の住宅着工を記録し、住宅市場への影響も軽微に見えた。しかし、97(平成9)年に5%に引き上げられてから一転し、住宅取得の駆け込みが起こり、その後反動減が続いた。くすぶっていた不良債権問題が露呈した頃と重なり、翌年の住宅着工は118万戸に一気に萎んだ。そしてまた今年、同じように駆け込みとその反動が繰り返された。

 安倍晋三首相の発言によれば、17年に10%に増税を実施するとしているが、消費税引き上げに上限はない。むしろ更に引き上げられていく可能性のほうが高い。その過程で住宅の消費税が生活者の負担能力を越えることは確実で、どこかの時点でこれに歯止めをかけなければならいことは明らかだ。

住宅は豊かさの源泉

 住宅にかかわる消費税論議では、住宅は生活基盤、様々な生活必需品の中で最も高額の部類に入るという点がいつも引き合いに出される。この世界共通ともいえる視点を踏まえれば、今後議論すべきは、住宅への軽減税率適用の是非ではなく、住宅の軽減率をどの程度にするかを決めておくのが喫緊の課題となるだろう。

 「生活に豊かさが感じられない」という言葉が聞かれて久しい。これは、生活者の実感であり、本音であり、悲鳴でもある。生活の基盤となる住宅、家、住まいを取得するという選択肢が、硬直的な消費税増税によって狭められていくならば、国民生活に豊かさがもたらされる可能性もまた狭まっていかざるを得ない。かねて指摘されている消費税の逆進性の点も、特に住宅では考慮されるべきだ。税を公平に負担するのと同様に、豊かさも公平に分かち合わなければならない。