総合

大言小語 居酒屋の意義

 衆院選の最中だが、なぜか東京一極集中の是非が争点にならない。政府・自民党はその是正を前提に(アベノミクスの効果が地方にも届くようにするということはそういうこと)「地方創生」を重要施策として打ち出している。野党は賛成か反対か。

 ▼一極集中の弊害で古典的なのが、朝夕の通勤ラッシュである。肉体的苦痛もあるが、見ず知らずのアカの他人と長時間、体を密着し続けなければならない精神的苦痛が重い。そこから逃れるためには互いを無視する。というより、もう〝人〟とは思わないようにするしかない。当然、自分もそこでは人ではない。石か貝のようなモノだ。車両を不気味な静寂が支配する。

 ▼モノだから、誰かが突然「降ります」と叫んでも応えない。1人暮らしで、職場でも、ほとんど口をきかない職種の人は、いつ人と語り合うのだろうか。そういう孤独な人も都会には多いのではないか。しかし、東京に通う勤め人の多くは忙しくて、そんな他人のことは思いもつかない。自意識だけが強い〝都市化人間〟を生み出すことも一極集中の弊害だ。

 ▼語り合うことは他人を少しでも理解しようとする試みだ。人を理解しようとする衝動が、人間を成長させる。しかし、職場で言葉を交わせる人たちも、仕事関係だけではマンネリとなり、成長の質が劣る。帰途、居酒屋の店主や常連仲間と話をすることには、そういう深い意味が隠されている。