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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇123 区分所有法施行62年 かたちあるもの哀れ 建て替えへ道探る

 「かたちあるものはいつか壊れる」というが、東京の代名詞にもなっている〝スクラップ&ビルド〟は、壊れるというよりも積極的に壊して土地利用を効率化するのが狙いだ。

 筆者が住む旧日本住宅公団の戸建て分譲地でも近年は古い住宅が(見た目はそうでもないが)解体され、土地が分筆されて家が2軒建てられるケースが増えている。これも土地利用の効率化である。

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 しかし所有者が単独のビルや戸建て住宅と違い、簡単には建て替えができないのが分譲マンションである。老朽化したり、社会的にも時代に合わなくなったりすれば建て替えたほうが土地の効率的利用が進むという点はビルや戸建て住宅と同じなのだが……。

築40年以上が増加

 分譲マンションのストックは現在約700万戸だが、81年の新耐震基準以前に建てられた旧耐震マンションが103万戸もある。今から2年後の26年末には築40年を超えるマンションが170万戸、そのうち築50年超が60万戸にも達する。マンション供給の第一次ブームが70年代に起こったことに起因する。

 築40~50年ともなれば耐震性の問題は別にしても外壁や給排水管の劣化など老朽化現象は避けられない。

 ならばこのようなマンションは社会経済という観点からも建て替えを促進すべきということで、これまでも区分所有法はその道を探るべく改正を重ねてきた。

 秋の臨時国会に先送りとなってしまったが今回の改正案も83年と02年に次ぐ三度目の大きな改正となる。多数決要件の更なる緩和が狙いで建て替え決議は現行の「区分所有者と議決権の5分の4以上」を原則に一定の要件を満たせばそれぞれ4分の3以上に緩和される。要件とは(1)地震や火災時に安全性が保てない(2)老朽化で外壁がボロボロ落ち周辺に危害を及ぼしかねないなど極めて常識的なものばかりである。

 もちろん4分の3(75%)でもハードルは高いと思うが、最後まで反対した者にとっては所有権を買い取られ、退去せざるを得ないという重大な権利侵害を受けるわけだから、多数決要件のこれ以上の緩和を許していいとは思えない。

多数決に限界も

 今後は多数決割合という数値の緩和ではなく公共による容積率緩和や資金援助など補助政策を厚くしていくべきではないか。そもそも、建て替えを難しくしているのは多数決要件の厳しさというよりは、建て替えに際して必要になる新たな資金負担を担える世帯がほとんどいないことだからである。

 建て替えや解体費を公共が支援することについては、「マンションも戸建て住宅も同じ私的財産であるのに、なぜマンションだけが優遇されるのか」という議論がある。公平性の観点からいえば確かに問題だ。しかし、ここは戸建て住宅の所有者が心を広くもつしかない。もともと政治とは不公平なものなのだから。それに誰も住まない廃墟化したマンション(コンクリートのゴミ)が出現すれば自宅がある地域の資産価値が落ちてしまうのだから……。

空中に所有権?

 62年前の1962年に区分所有法が制定された当時、業界の間でも「空中に所有権ができるらしい」と誰もが疑惑の目で見ていたという。

 しかし、一方で頑丈な鉄筋コンクリート造りの建物に対する信仰もあったようで物理的老朽化という概念は希薄だったようだ。建て替えについても、どこまで現実的に想定していたのだろうか。現実は築40年余で老朽化による建て替え事例が出てきている。

 大手系ディベロッパーの中には自社がかつて分譲したマンションも含め、これからは建て替え事業が新築分譲以上に主流になるとの読みからノウハウ蓄積に動き出している企業もある。

 それにしても、総戸数が数十戸ならいさ知らず、数百戸の(場合によっては1000戸を超える)マンションを建て替えることなど本当に可能なのか。不動産業界にとっては依然、半信半疑の課題でもある。