政策

社説 マンション市場の主役は 勤労者に魅力的な商品を

 新築マンションの売れ行きがいい。首都圏の場合、発売戸数は前年を下回っているが、月間契約率は70%を超える水準を保ち、大きな減速要因は見当たらないように見える。大手不動産の経営トップも用地高、建築費高などコスト高要因や、勤労者世帯の所得の伸び悩みという不安要因があるものの、最低水準の住宅ローン金利や住宅減税策効果などもあって、取得意欲の高い状況が続くと見ている。

 実際、各社が販売した大型物件などは当初想定以上の反響で、順調な売れ行きを示している。特に都心部や湾岸エリアのタワー物件、再開発型駅近物件は即日完売が続いている。大型物件が首都圏市場全体をけん引している格好だ。だが、それらは平均坪単価で300万円台、400万円台、一戸当たりでは7000万~8000万円台という高額になるわけだから、買っているのは普通の勤労者世帯ではない。会社役員や経営者、医師、弁護士などのいわゆる富裕層と投資家、更に親の支援がある会社員、上場会社など高給取りの共働き世帯である。

 今年は東京港区で坪800万円弱、JR山手線目黒駅前の再開発物件(品川区)で同600万円、横浜・みなとみらい地区で同400万円超と、各エリアの最高値更新の「億ション」物件も供給されたが、いずれも即完した。立地の希少性に加え、都心部を中心とした地価上昇や投資ブームなどを背景とした先高観や、消費税増税が控えていることなどが後押ししているようだ。

市場の維持のためにも

 このように高額物件に人気が殺到する一方で、都内でも坪200万円前後や、千葉県、埼玉県の150万円前後の買いやすいと思われる物件でありながらふるわないケースも目立っている。駅からの利便性、周辺環境といった要因もあるが、一般需要者には価格上昇傾向が重くのしかかっているのだ。それは勤労者世帯の所得が伸びないため、「住宅ローン審査の結果、キャンセルになるケースが増えている」(住宅金融関係者)ことにも表れている。

 市場では大型物件や湾岸タワーなど注目度の高い物件に目が向きがちだが、マンション市場を支えているのは富裕層や投資家ではなく、大多数を占める一般需要者である。そうした需要層が諦めることなく、希望を持てる商品を供給していくことは、マンション市場を維持し、育成していくことにもつながる。例えば、郊外を見直してはどうか。比較的交通利便のいいところに、手ごろな価格で子育て環境が整った住宅を供給できる可能性がある。地元自治体の協力も得やすいのではないか。

 消費税は17年4月、更に2%引き上げられ、需要者の取得環境は一層厳しくなる。その中で勤労者に魅力的なマンションを供給していくことができるか、ディベロッパーの真価が問われている。