自宅を活用した資金調達手段として、リースバックが広がり始めた。所有者は自宅を売却した後も、賃料を払いながら住み続けるというもので、売却代金は生活費の補填や、医療費など急きょ必要になった資金に充てることができる。長寿化の今、不動産業界の新ビジネスとなる可能性を秘めている。
こうしたリースバック事業を早くから手掛けているのが不動産会社のハウスドゥだが、最近は異業種からの参入が目立つ。例えばリコーリースは今春から事業をスタートした。新生銀行も9月半ばから取り扱いを始めた。こちらは子会社の昭和リースが高齢者から物件を買い取り、定期借家契約で売主に賃貸するスキームだ。
参入の背景にあるのが長寿化だ。政府は9月、「人生100年時代構想会議」を設置したが、人生100年を想定するとのびる老後をどう過ごすかが重大な関心事となる。今、日本の平均寿命は男性が80歳、女性は87歳。定年年齢が65歳ならば、その後も約20年間の生活費が必要だ。
幸いなことに日本は持ち家率が高い。40代前半には5割を超え、60歳以上になると約8割に上る。長くなる老後の資金調達として、持ち家としての自宅を活用することができれば安心だ。
空き家対策にも
現在の長寿化と持ち家率を考えると、自宅を活用した資金調達ニーズは増える一方だから不動産業界としてはビジネスチャンスとなる。金融機関のビジネスであるリバースモーゲージとは異なり、リースバックは不動産取引だからである。しかも高齢者にとっても自分が生きている間の契約だから分かりやすい。不動産事業者として、どのような物件を対象とし、買い取り価格はどうするか、それに伴う賃料設定や賃貸期間をどう設定するか。居住者が退去した後の活用方法、流動性をどのように判断するか。リスクを懸念する声もある。それだけにビジネスモデルを確立することにはやりがいもある。
フランスには、古くから「ヴィアジェ」という不動産取引の一形態が存在する。高齢者が自宅を売却し、住み続けながらその代金を分割して、死ぬまで年金的に受け取るものだ。近年は買主側のリスクをカバーする方法として、投資家が出資したファンドがヴィアジェ物件を購入する動きも出始めている。
自宅の行方を元気なうちに所有者自身が決めておくことは、現在、国土交通省が課題として挙げている中古流通活性化や空き家対策にも寄与するはずだ。業界は、〝豊かな老後を支える〟手段として、リースバックを始めとした新たな住宅ストックビジネスに目を向けるべきだ。