仕事が思いのほか早く終わり、まだ日の高いうちに、ひとり五反田駅近くの「もつ焼き ばん」に立ち寄った。懐かしいコの字カウンターの酒場である。早い時間からほぼ満席で、幅広い老若男女に愛されていることが見て取れる。「レモンサワー発祥の店」だけあり、フレッシュなレモンサワーが美味い。焼酎が入ったグラス、炭酸水、カットレモンが別々に出され、客がレモンを絞り炭酸水で割るので、アルコール濃度やレモンの濃さは好みに合わせてつくることができる。人気メニューはもつ焼き(しろ、てっぽう、レバ、タン、カシラ)、もつ煮込み(柔らかく美味しい)、ガツ刺し、コブクロ刺し、トンビ豆腐、レバカツなどである。馬刺しも美味かった。
筆者は個店にこだわりがあり、チェーン店の類にはほとんど行かないのだが、例外は「加賀屋」と「ばん」である。どちらもフランチャイズではなく、初代からの暖簾分けや再建による店舗群だ。「もつ焼き ばん」は1958年に小杉正氏により中目黒で創業され、初めて焼酎の炭酸割りにレモンを絞って提供し、「レモンサワー発祥の店」として知られた。47年間にわたり中目黒の名店として愛されたが、2004年に中目黒駅周辺再開発に伴い閉店したという。
「ばん」には、中目黒・五反田系と祐天寺系の2つがあると言われる。前者は創業者の義理の息子である松本勝氏が五反田に開店し、その後、創業の地である中目黒に「もつ焼き ばん中目黒本店」を再開した。続いて三軒茶屋店、下北沢店、高田馬場店が開店した。後者は創業者の弟、小杉潔氏が中目黒時代の仲間と共に祐天寺に開店した「もつやき ばん」である。こんな酒場のファミリーヒストリーも、酒飲みをワクワクさせる。 (似内志朗)