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不動産ビジネス塾 売買仲介 初級編80 ~畑中学 取引実践ポイント~ 売主と買主を整理して対応を 「印鑑証明書と住民票」

 売主は印鑑証明書、買主は住民票。売買の手続きに必要な書類は何ですか?と売主や買主に聞かれたとき、所有権移転登記に必要な書類として最低限案内する書類だ。新人の頃はこれらが分かりづらい。売主に住所変更の登記があると住民票(戸籍附票等)が必要となり、買主も住宅ローンを利用すると金融機関から印鑑証明書を求められる。どの場面で何の書類が必要か整理できず、混在して覚えていると「買主も必ず印鑑証明書を用意してもらおう」と間違ってしまう。整理して覚えておきたいところだ。

 売主は所有権移転登記時には印鑑証明書1通が必要、ただし住所変更登記があると住所のつながりを示す書類として住民票1通(数回引っ越しをしていると戸籍附票等)が追加で必要となる。

 買主は所有権移転登記時に住民票が1通必要となるが、住宅ローンを利用する場合は金銭消費貸借契約時に金融機関から印鑑証明書が1~2通求められ、かつ住民票1通を求められる。

 逆に住宅ローンを利用しなければそれが不要なので、所有権移転登記に使う住民票1通のみ必要と把握しておけば良い。なお、金融機関と登記を行う司法書士が連携している場合は、住民票を使い回すことがあるので、本来2通必要だが1通で事足りることもある。この辺は事前に確認しておこう。

 過去に売買の経験がある買主から聞かれることがある。「過去に自宅を買った時には印鑑証明書が必要と言われた気がするけど、本当に住民票だけで大丈夫でしょうか?」

 このように聞かれても、どの場面で何の書類が必要か分かっていれば大丈夫。「住宅ローンを利用する場合は金融機関への提出用で印鑑証明書が必要ですが、今回は現金での購入なので印鑑証明書は不要です」と買主に分かるように説明ができるはずだ。

 所有権移転登記における各書類の有効期限は、印鑑証明書は3カ月以内とされているが、住民票に原則有効期限はない。売主は成り済ましを防ぐため、過去に紛失をした古い印鑑証明書を利用できないようにしていると考えると分かりやすい。3カ月以内だったら売主も印鑑証明書が紛失しているリスクは小さいと言える。一方で、買主は売買代金を支払う立場であり、古い住民票を使われて成り済まされても、また、あえて現住所と異なる古い住民票を使われても、売主に大きな損害を与えるとは考えづらい。そのような経緯から有効期限は設けていないものと考えられる。

 なお、住民票は所有権移転登記には抄本(個人のみ)でも構わない。金融機関には原則、謄本(世帯全員分)を提出するが、誤って買主が抄本を取得したなら、せめて登記には利用できることを伝えてあげると親切かもしれない。

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【プロフィール】

 はたなか・おさむ=不動産コンサルタント/武蔵野不動産相談室(株)代表取締役。2008年より相続や債務に絡んだ不動産コンサルタントとして活動している。全宅連のキャリアパーソン講座、神奈川宅建ビジネススクール、宅建登録実務講習の講師などを務めた。著書には約8万部のロングセラーとなった『不動産の基本を学ぶ』(かんき出版)、『家を売る人買う人の手続きが分かる本』(同)、『不動産業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)など7冊。テキストは『全宅連キャリアパーソン講座テキスト』(建築資料研究社)など。