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酒場遺産 ▶31 東京・人形町 鳥正 創業48年、地酒と魚料理が評判

 人形町には数多くの魅力的な酒場がある。日の沈む時刻に裏通りなどを歩けば、かつて花街であった頃の色香が、時を経ても街のあちらこちらから水蒸気のように漂うような妄想に囚われる。「酒場遺産」では笹新、加島酒店、京家と紹介してきたが、今回は創業48年の炭火焼「鳥正」である。人形町通りから一本南西側の通りに面した小さな鶏料理の店で、雑誌などにもあまり取り上げられていない地味な店だ。筆者は近くで会議があり、仲間たちと偶然に入ったのだが、実に気持ちの良い店だった。間口が小さく奥深い平面形で、5~6人が座れる正方形のテーブル、奥の小上がりの座敷には小さな4人掛けの座卓が2つ。小さな店だ。

 この日、頼んだのは麒麟山・黒牛・七賢、肴は秋刀魚刺し、鯵なめろう、出汁巻玉子、秋刀魚焼き、つくね串焼き、ハツ串焼き。どれも新鮮で美味く、勘定も手頃でひとり3000円といったところだ。品書きを見ると、ねぎま、つくね、もつ、軟骨、砂肝、かわ、合鴨など、焼き物はすべて炭火で焼くという。

 また、以前は寿司職人だったという店主のつくる魚料理も評判だ。常備している地酒は開運純米(静岡)、雪の茅舎純米吟醸(秋田)、栄光富士純米大吟醸(山形)、七賢純米吟醸(山梨)、麒麟山辛口(新潟)、初孫生酛純米(山形)、一ノ蔵特別純米(宮城)、黒牛純米(和歌山)、亀泉特別純米(高知)など、酒飲みには嬉しい店だ。

 焼き場に立つ頑固そうな店主、そして女将さんも口数は多くなくとも親切さの滲み出る笑顔が嬉しい。居心地の良い店だった。

                   (似内志朗)