総合 投資

転機(上) 不動産業界の急所 金利上昇に備えよ先行指標 「Jリート」動向を追う 資金調達コスト実質上昇 健全な財務構造で資産拡大へ 長期金利 目標年限の短縮に警戒

 インフレ退治で米国は金融引き締めに動く。3月にも利上げが見込まれ、米国発の利上げ余波が世界に広がっている。ゼロ金利政策を維持する日本も例外ではない。10年国債利回りが0.2%台に上昇したことを受け日銀は0.25%を上限とした無制限の買いオペ(公開市場操作)を実施するなど金利の抑え込みに躍起だ。特に住宅・不動産業界は有利子負債が多いだけに金利動向に機敏にならざるを得ない。金融政策の変更もくすぶる中で不動産業界への影響をシリーズで追う。初回は先行指標とされるJリート市場を探った。

 きな臭い国際情勢などと複雑に絡み合いながら資源価格が高騰して世界をインフレの渦に巻き込んでいる。利上げ懸念の端緒である米国では、今年11月に中間選挙を控えていることで現政権がインフレ抑制のために利上げを加速することも想定されている。

 米国の金利上昇リスクを受けて不動産サービス大手のジョーンズラングラサール(JLL)では、「現在の過度な需要超過の状況を踏まえると日本の不動産投資市場に対する影響は限定的で堅調な投資需要は続く」と見ている。

 ただ、Jリート市場を見ると年明け以降は軟調な相場が続いている。長期金利の上昇懸念が高まる局面では経験上パフォーマンスが下振れしてきたが、年初から11日連続で東証リート指数は下落して1月末時点の同指数は節目の2000ポイントを割り込んだ。用途別の指数は全セクターが前月から低下し、コロナ禍でも好調の代表例である物流施設と住宅の指数まで弱含んだ。

金融引き締め地ならし

 不動産証券化協会によれば、21年は年間で282物件を取得しており、その取得価格は総額1兆5968億円と前年比2000億円ほど上回った。22年の売買取引はどうなるか。1月の売買動向を見ると、11投資法人が36物件・約1780億円の取得を発表し、7投資法人が予定を含めて12物件・約380億円の売却を発表した。

 運用拡大に向けて前年並みに資産を買い入れたり、資産の入れ替えに伴う売却が進むかなどは金利動向がカギを握り、資金調達コストが上がれば運用資産拡大に向けての物件購入意欲がなえかねない。

 そうした中、モルガン・スタンレーMUFG証券は、「22年の後半にも日本銀行が長期金利の目標年限を10年から5年に短縮する可能性が十分にあると考えている。その場合は、将来の金融引き締めの地ならしの可能性がある」(マクロチーム)。低金利に浸りきった市場に金利上昇への備えが急浮上している。

 REITアナリストの山崎成人氏は、「既に不動産業界向けの資金調達環境が変化しており、保有物件の売却によって新規の運用物件取得に伴う資金の一部を調達する動きが増えている。金融機関の融資姿勢が変化しているためだ」と指摘する。一つに新型コロナウイルスの影響があるとの指摘が少なくない。

 不動産の競売事情に詳しいワイズ不動産投資顧問(東京都千代田区)の山田純男代表は、「銀行はノーリスクで融資している。ゼロゼロ融資(実質無担保・無利子)により、コロナで業績悪化の企業を支援しているが、政府が保証しているため焦げ付かないので積極姿勢で貸し出しを進めていた」といい、不動産業向けよりも安心・安全なコロナ案件に資金を振り向けたのではないかと見る。無利子融資といっても銀行は国や地方公共団体から利子分の支給があり、コロナ関連の融資で収益を確保している。

金融正常は与信格差へ

 ただ、前述の山崎アナリストは、「この融資は従来と異なり、預金を原資としているために預貸率の推移によっては融資が厳しくなり、メガバンクの大型融資は特に慎重になる。Jリートの資金調達でも実質金利(支払利息+融資関連費用)はかなり上昇しており、従来に比べて金利上昇と融資審査の厳格化が起こっている」とも指摘する。

 『不動産運用+ポートフォリオ運用+財務運用』。この3つの運用でJリートは成り立つ。不動産の運用が根幹となるが、ポートフォリオと財務で補完することが高いパフォーマンスに欠かせない。賃貸収入がなるべくぶれないよう資産運用規模の拡大がキーポイントだ。家賃収入を安定させることで分配金と投資口価格(株価に相当)の安定につなげる。

 財務戦略も収益の安定で大きなウェートを占めており、健全な財務構造を作れば金融機関の信用力が上がり資金調達金利を下げられる。現行の与信は金融緩和とマイナス金利などでJリート間の格差が水没して見えないが、金融政策が正常に向かえば銘柄間の格差が表面化するとされる。低い与信のリートは融資手数料など金融機関に支払う営業外費用が増え経常利益がその分減り、分配金も減少する。

 「営業外費用が5%上昇すると分配金は10%程度縮まる」(山崎氏)との見方もある。無配ともなれば上場維持が危ぶまれる。3期連続の無配で上場は廃止となる。

 財務戦略の手腕が重みを増し、資産拡大を左右する。世界的な利上げの潮流にあらがいながら低金利政策を継続する日本にも資金調達環境の悪化懸念が頭をもたげており、ハイレバレッジ(自己資金の省力化)というアグレッシブな財務方針へ転換した場合には格下げにつながり投資法人債の発行に影響する可能性もある。21年の公募増資は4478億円と前年に比べて約25%減った。資産の売却や手元資金の活用、エクイティの活用などで保守的なレバレッジでの運用管理が一層求められる局面に突入している。