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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇30 時代を覆う闇 今年最大の課題 何が見えていないかを知る

〝コロナの死角〟

 住宅業界には、コロナ禍で住宅が売れている根本要因は〝コロナ貯蓄〟が住宅市場に流れ込んでいるからという見方がある(第25回当コラム参照)。ということは、幸い今年コロナが収束すれば皮肉にもコロナ貯蓄の積み増しもなくなり、住宅市場の活況が途絶えることになる。

 コロナの死角は人々の心にもある。「何が起こるか分からない時代になった」という思いはヘタをすれば虚無主義や厭世観を助長する。そして社会が活力を失えば、嘘や欺瞞による闇が蔓延る。コロナに負けない強い心をどうすれば持ち続けることができるか。突き詰めれば、今年最大の課題がそこにある。

新規事業の意義

 近年目立ち始めたのが大手ディベロッパーによる新規事業の立ち上げである。例えば、三井不動産は東京湾岸エリアを中心にマンション住民向けサービスとして移動式車両店舗を展開。これは固定店舗とECとの中間ともいえる業態で〝新たな買い物体験〟を創出する。三井不動産の子会社が移動車両を出店者に貸し出し、今春までには約60店舗に拡大する計画だ。

 三菱地所は社員にアイデアを提案してもらい、採択した場合は提案者などを社長とするベンチャーを立ち上げ事業化までをサポートしている。 昨年は過去最高の89件の応募があったという。実現した最近の事例としては、瞑想スタジオの「Medicha」、農業の「MECアグリ」、マイクロツーリズムの「膝栗毛」などがある。ただ、これらの試みも単なる〝事業の多角化〟ということだけで終わってしまえばその意義は小さい。本業とのシナジーを生み出す創意と着眼力が求められるが、そのためには日頃から本業(例えば住宅販売)の本質をどこまで掘り下げているかが問われることになる。

DXの本質

 今年、DXが本格化することは疑いようもない。業界を変える最大の潮流と言ってもよく、その波についていけない中小不動産会社の淘汰が進むだろう。かつて流通革命が起こり、小さな個人商店がスーパーやコンビニの陰に消えて行ったのと同様の変化が予想される。

 もっとも盛んに導入され始めた「自動追客システム」「AI査定」「営業トークの見える化」「オーナーアプリ」などはまだまだ本物のDXではない。従来からの業務を効率化して生産性を上げているだけだからである。DXの本質は単なる技術革新ではなく、その技術を活用し、全く新しいビジネスモデルを構築することである。これまで隠れていた人間の願望・欲望を引きずり出し、新たな人間の本性を発見することと言ってもいいだろう。

 スマホやデジタル技術が人間同士のつながり方に変革をもたらし、リアルで接する以上のリアルさと興奮をそこに生み出し始めたことはその一例である。科学技術の発達に際限がないとすれば、結局人間はどこに行こうとしているのか。見えない未来はますます闇に閉ざされていく。

賃貸は変わるか

 昨年6月に賃貸住宅管理業法が全面施行され、これまであいまいだった賃貸仲介と管理業務が明確に分離された。更に「賃貸住宅大規模修繕積立金の損金算入制度」が実現し、賃貸住宅が長期にわたり良好な状態で維持される道筋も開かれた。〝賃貸新時代〟への期待は高まっている。「自民党ちんたい議連」の石破茂会長は「日本の住宅政策はこれまでの持ち家取得促進から賃貸住宅市場の整備に軸足を移していく必要がある」と主張する。

 賃貸といえば昨年12月、リクルート、アットホーム、ライフルの3社が運営する検索サイトは、これまでは自動的に「アパート」として登録していた木造賃貸住宅について、一定の基準を満たす物件は木造でも「マンション」として登録することを決めた。これは耐震・耐火面で進化する木造住宅の社会的地位向上を促す動きとして今年大いに注目される。