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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇28 今年最後に考えたこと 〝アート〟の意味 街に新たな感動

 重大ニュースの選からはもれたが、今年は不動産とアート(芸術)との関係を考える話題が多かった年でもある。 本紙見出しを拾うとーー。「アートとまちづくり(上) 三菱地所、大丸有エリア〝アート〟がビジネスに気付き」(1月19日号)、「同(下) デジタルアートが街に人を呼ぶ」(1月26日号)、「公共トイレを刷新隈研吾氏デザイン」(6月29日号)、「来館制限される美術館 デジタルで魅力高める」(7月27日号)、「東京建物 東京・京橋にアートギャラリー」(10月19日号)、「東急不など3社が都市型商業施設で NFTアート販売の実証実験」(11月30日号)、「森ビル アートをテーマに親子向けオンラインプログラム」(12月1日)。

 そして直近では三井不動産が12月14日、日本橋を舞台に推進している「未来特区プロジェクト」の文化領域を担う「クリエイター特区」でアイデアの一般募集を開始したと発表した。

 日本でもようやく不動産とアートの関係に意識が向かい始めた。そもそも、この世は「存在する」ということ自体がアートである。だから、最大級の工作物である〝街〟がアートと無縁であることなどあり得ない。日本にとって不幸だったのは、戦後東京の復興が、日本人の手ではなく異なる文化を持ったGHQの支配下で行われたことである。

 更に極度の食糧難と住宅不足の解消が急がれたため無秩序な闇市とバラック建築から復興が始まった。昭和25年の建築基準法制定までは復興というよりも安易な〝復旧〟に過ぎなかったともいえる。建築や街づくりにおける〝美〟の重要性を意識する余裕などなかったのである。

 それから76年。豊かになった今、街づくりは景観協定やコモンスペースの導入が一般化し、パブリックアートの活用も進む。12月15日、プレハブ建築協会主催の「すまい・まちづくりシンポジウム」がオンラインで開かれた。テーマは環境、災害対策、健康などを主眼に「ニューレジリエンス時代への対応」。パネルディスカッションで進行役を務めた齊藤広子氏(横浜市立大学教授)が、「これからの街づくりに求められる新たな価値とは何か」を鋭く問う。

人類共通の価値

 パネラーの二瓶正史氏(アーバンセクション社長)は「レジリエンス(復元力)を生み出すものはコミュニティだ」と指摘し、上田眞氏(パナソニックホームズ街づくり事業開発部長)は「サスティナブルを実現するには子供たちが自分の街に誇りをもてるようにしなければならない」と語る。

 温井達也氏(プレスメイキング研究所社長)は「年月を経た既存の街に〝新たな場〟を創り出すのは特に難しい。地域の特性を見て、我々は地域住民のネットワークづくりを支援する黒子にならなければならない」と指摘した。

 秋元孝之氏(芝浦工業大学建築学部長教授)は「レジリエンスもウェルネスも人類共通のテーマだが、人類はこれまで経験したことのないような危機に直面している。だから今こそ、人類共通の価値観を確立しなければならない」と語った。齋藤広子氏は最後にこう語る。「新しい価値の中には、忘れていた既存の価値を再認識することも含まれる」と。

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 人類共通の価値観にアートがある。人種を超え言語を超え、人類が共鳴できるのはアートがもたらす感動だ。建物に対する美意識なくして美しい街並みは生まれない。その美しさに感動したとき、そこに暮らす人たちの間に強い絆とコミュニティが生まれる。交流を深める大人たちを見て、子供たちは街に誇りを持ち永続していきたいと強く願う。

 「ニュータウンがオールドタウンに変貌してしまうのは、そこで世代交代が生まれなかったからだと」二瓶氏は指摘した。既存の街に常に新たな価値を創り出していけば街は残る。「これからの事業者に課せられるのは、造ったあともその街をフォローしていく覚悟と責任である」(齊藤氏)ことを教えてくれるシンポジウムとなった。