政策

国交省 事故物件、宅建業者に告知指針 自然死、不慮の死は対象外 トラブルの未然防止へ周知徹底を

 過去に自殺や他殺など人の死が発生した「事故物件」の取引における告知の判断基準を国が「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」として初めて示した。取引対象となる居住用不動産で発生した自然死や不慮の死は原則、宅建業者が買主・借主に対して「告げなくてもよい」と明示。告知する際の内容や留意事項も整理した。国土交通省は事業者の負担軽減と適正な取引の推進につなげたい考えだ。

 人の死の告知は、買主・借主にとっては不動産取引において契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす事項となる。しかし、これまでは適切な調査や告知に関する明確なルールがなく、宅建業者・当事者の判断に任せられたり、単身高齢者の入居が断られたりする課題があった。

 同省では20年2月、宅建業者が宅建業法上背負うべき義務の解釈について検討を開始。判例等を踏まえ、同指針をとりまとめた。5月に公表した指針案では、告知すべき死因として他殺や自殺を明記したが、パブリックコメントで「人の死によって必然的に心理的瑕疵が生じるのか」という意見が複数出されたため、「告げなくてもよい範囲」を明確にする形に修正した。

 同指針で対象となるのはマンションや一戸建てなど居住用不動産だ。居室だけでなくベランダやエレベーター、廊下など通常使用する集合住宅の共用部も含まれる。原則として、人の死に関する事案が取引相手の判断に重要な影響を及ぼす場合、宅建業者は告知が必要となる。その上で、自然死や日常生活の中での不慮の死は「発生することが当然予測され、買主・借主に重要な影響を及ぼす可能性は低い」との判断から告知の対象外とした(上記表を参照)。

 賃貸物件では、病死などを除いて集合住宅の専有部や通常使用する共用部等での自殺、他殺等については事案発生(特殊清掃等が行われた場合は発覚)からおおむね3年間は、発生時期・場所・死因の告知が必要となる。

 また、宅建業者が媒介を行う場合の調査は、告知書などに過去に生じた事案の記載を求めることで可とし、聞き込みなど自発的な調査を行う義務はないとした。留意点として売主・貸主に対して記載が適切に行われるよう助言すると共に、「事案の存在について故意に告知しなかった場合、民事上の責任を問われる可能性があることを伝えるのが望ましい」としている。

業界は評価、改定に期待も

 業界団体からは一定の基準が示されたことを評価する声が聞かれる(業界団体コメント参照)。現場でも「安心した取引につながる」「告知不要の例が示されたことは、売主・貸主、宅建業者にとっても負担軽減となる」など好意的に受け止める一方、「売買契約での告知期間が決められていない」や「トラブルになった際、事業者の説明不足を問われる不安は払拭できない」など懸念する声も聞かれる。

 同省としても「現時点で妥当と考えられる一般的な基準」としており、今後は適時見直しを行う考えだ。例えば「人の死が生じた建物が取り壊された場合の土地取引の取り扱い」「搬送先の病院で死亡した場合の取り扱い」は裁判例や取引実務の蓄積がないため、現時点の指針の対象外となっている。斉藤鉄夫国交大臣も10月6日の専門紙会見で、トラブルの未然防止への期待と共に今後の周知徹底を明言した。適切な取引の推進に向け、業界を挙げた理解浸透の取り組みが求められる。

論点客観化に意義 伊豆隆義弁護士

 本ガイドラインは、宅建業者の調査説明義務の範囲を明確化して責任を軽減するに留まらず、「人の死の告知」とした通り、従来「心理的」瑕疵という買主の主観面に向けがちであった取引当事者の視線を「人の死」という事実面に向き直させて、かつ、告知義務を負わない場合と告知義務を負う場合とを明確化することで、論点を客観化した点に意義があると考える。実は既に裁判例でも当事者の個人的・主観的嫌悪ではなく、通常一般人においてどう見るかと言う観点から「心理的瑕疵」の告知義務の有無を捉えていたが、必ずしも社会に浸透せず、買主の単なる嫌悪感から関係者を損害賠償請求する例や高齢者の入居を拒む例があった。今般ガイドラインが公表されたことでより基準が客観化した。今後は自死等をめぐる係争解決の判断要素ともなり、紛争解決が促進され、ひいては係争も減り、また既存建物の流通促進や高齢者への賃貸の障害除去につながることが期待できる。