総合

大言小語 迫る五輪

 昨年の3月、「東京五輪に黄色信号」とこの欄で見通したように開催は1年延期された。1年余りが経ち、五輪開催の機運は依然としてコロナ禍に阻まれたままだ。海外客を受け入れないとして大会委員会が開催に向けた努力を続けるが、目前に大会を控えてなお開催か中止かで大衆の意見は分かれる。開催に向けて進むべきか否か、開催して大丈夫なのか誰にも答えが見つけられない。

 ▼東日本大震災の直後、不動産市場では特にウォーターフロントに立地する新築マンション販売が大苦戦を強いられた。大津波が不動産市場にも暗い影を落としていたからだ。そんな中で売り出されていた湾岸エリアのマンション市場を調べていた折に、64年大会より以前に、湾岸エリアを舞台に五輪計画が存在していたことを知った。20年の東京大会を控えた大河ドラマでこの歴史が描かれ、幻の五輪は再び広く知れ渡ることになった。とはいえ中止から80年が過ぎ、世代交代も進んだ時代に、幻の五輪は世の中から忘れ去られていたに違いない。何よりも戦争に突き進む日本で、平和の祭典の計画があったこと自体が驚きだ。

 ▼今大会は、世界規模のパンデミックに翻弄された五輪として歴史に刻まれる。それは開催できても、断念せざるを得なくなったとしてもだ。世の中が落ち着きを取り戻した後、改めて今大会が思い出されて多くの人たちがその意義を感じてくれることになるだろう。