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社説 賃貸住宅の高齢者入居拒否問題 国家的課題として解決急げ

 国土交通省は2月12日から来年度の「サービス付き高齢者向け住宅整備事業」(継続)、および「セーフティネット住宅改修事業」(同)などの説明会を全国12都市で開催する。日本では高齢者の持ち家率は高いものの、介護が必要となったり、一人暮らしが長引くことで高齢者専用住宅に移らざるを得なくなる人たちが今後大幅に増えてくる。不動産業界としても、国のこうした高齢者向け住宅の施策に真剣なまなざしを向けるときだ。

 一般賃貸市場でも高齢者の入居拒否問題が深刻化している。弱者としての高齢者を拒否するだけでなく、まだまだ元気で、資産がある高齢者でも〝70歳〟を超えていたりすると、それだけで賃貸への入居を拒まれてしまうケースが増加していることだ。近年は、リタイア後に子供の近くへ住み替えたり、自然豊かな郊外に「お試し移住」として一般の賃貸住宅を探すアクティブシニアが増えている。長寿社会を迎え芽生えつつあるそうした新たな住み替えニーズを、高齢者に対する〝門前払い〟という業界慣習が押しつぶしてしまうことは避けなければならない。

 もちろん、入居時点では元気でも70歳以上ともなれば、脳梗塞や心筋梗塞、認知症などの病気がいつ発生するか分からないのも事実。要は緊急事態が発生したときの対応が定められているとか、それ以前に日常的にコンタクトを取る家族などがいることが分かっていれば、大家も不動産管理会社も即座に〝門前払い〟にすることはないと思う。

 しかし、それでも、高齢者の入居は長期化することが多いので、その間に保証人や家族との関係が薄れることを恐れ、入居を敬遠する大家はなくならないだろう。それどころか、高齢者の孤独死や認知症などによるトラブルが既に日常化しつつある今日、高齢者敬遠の空気は今後いっそう強まっていく可能性が高い。

 そのため、国交省が20年度予算案として250億円を計上している「スマートウェルネス住宅等推進事業」では、住宅弱者向けの上記2つの事業に加え、「人生100年時代を支える住まい環境整備モデル事業」(継続)と「地域生活拠点型再開発事業」(新規)も含まれており、健康増進、多世代交流、子育て支援など、より幅広い観点からの高齢者向け住宅整備にも力を注ぐ。

 高齢者というだけで差別的対応をすることは、たとえそれが〝事業としての都合〟によるものであっても、いずれ社会的非難を浴びるようになるだろう。出生率など今のトレンドが続けば、日本は今後100年経っても超高齢社会から抜け出すことはできない。ということは高齢者の問題は国家が総力を挙げて解決しなければならない重要課題である。その中心を担う不動産業が率先してこの問題に取り組まなければ、日本社会に明るい展望を抱くことはできない。