新たな年のスタートに当たり、人口減少、少子高齢化が本格化するこれからの時代に、「不動産業界はどう変わるべきか」を論じたい。中でも少子高齢化が国民生活にもたらす最大の懸案は社会保障制度の存続である。
東京オリンピックが開かれる20年には、1人の高齢者(65歳以上)を支える現役世代(20~64歳)の数が2人以下の1.87人となる。我が国の社会保障制度は原則として、現役世代がリタイアした人たちを支える「世代間扶養」方式だから、いわゆる〝肩車社会〟への突入は同制度存続に〝黄信号〟が点灯したことを意味する。
政府は年金支給開始年齢を遅らせ、外国人労働者を増やし、更には〝1億総活躍社会〟の名のもと、専業主婦と高齢者の就業を増やすことで、支える人と支えられる人のバランス改善を進めていくことになるだろう。
しかし、それでも現役世代の負担が今よりも重くなっていくことは確実だし、高齢者の生活が今よりも豊かになっていくことは期待しがたい。ただ、幸いなことに、我が国の高齢者の持ち家率は80%に達している。この唯一と言ってもいい貴重な資産の価値を維持し高めていくことは、超高齢社会に突入する我が国の不動産流通業に課された最大の使命といっていいだろう。
近年、高齢者の自宅を対象にした「リースバック方式」や「リバースモーゲージ・ローン」などが普及の兆しを見せ始めたことに注目したい。住宅の資産価値を維持・向上させることができれば、これらの手法を活用し、老後の生活を多少なりとも豊かにすることが可能になる。
住宅の資産価値を維持・向上させるためには「地域の魅力」を育てることが基本となる。それも一時的ではなく、地域の魅力を創造し、持続可能なかたちで高め続ける努力をすることで、将来の高齢者世代(現在の若者)も安心して暮らすことができる。
まさに、この難題ともいうべき課題に取り組むことが、これからの不動産会社に課された使命である。その際、他地域と人口を奪い合う戦術は避けなければならない。国全体の課題である少子化対策に取り組むためには、それぞれのエリアが地元の特性に目を凝らし、「ここでしかできない暮らし」を創造していくことしかないだろう。
そのためには自治体、不動産業界、地元金融機関、福祉団体、住民らが連携し〝我が街〟の新たな魅力を創造していくしかない。「東京(大都市)と地方」という分断思想もやめるべきである。社会保障制度存続という国家戦略に貢献するためには、企業レベルではなく業界全体の課題として取り組む覚悟が必要である。