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大言小語 中吊り広告

 誰も見ていない「中吊り広告」はいずれなくなる運命では―と予言する経済雑誌の幹部の話を聞いて、そんなことはないと思いながら、意識して着ぶくれした通勤電車の中を観察した。確かに中吊りを見ている人は少ない。注目度が落ちているのが一目瞭然だ。

 ▼では、乗客が目を向けているのはどこかというと、答えは掌に乗せたスマートフォンである。そのスマホに携帯電話、ダブレット、電子書籍リーダーなどを加えると、電子端末機を見ている人がおそらく半数以上を占めている。これに対して活字派はめっきり少なくなった。文庫本、新聞、雑誌、コミックを合わせても3割程度か。座席の人がすべてスマホという車両に乗り合わせることもある。

 ▼「東京の人はどうしちゃったんでしょうね」。車社会の地方都市から上京して、電車に乗った知人がつぶやいた。みんながうつむき加減で画面を操作している姿は滑稽でもあるが、満員の通勤電車の中となると笑えない。操作用のスペースを確保するため〝戦闘モード〟の人も多い。両手操作の人はバッグを肩に掛けたままで押し込んでくる。周りの迷惑にも気づかない。

 ▼「新聞、雑誌をお読みの方はほかのお客様の迷惑にならないようご注意下さい」。車内放送がむなしく響く。技術が進歩してもマナーは相変わらずだと顔を上げると、中吊り広告がなぜか堂々として見える。車内にはまだ欠かせない存在である。