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社説 国会で法案提出進む 〝民間の力〟で社会変える意識を

 現在会期中の国会では、予算案審議の過程がひと段落し、まもなく通常法案の審議が本格化する見通しだ。各省庁所管法案の提出も進み、住宅・不動産業界と関連の深い国土交通省関係の法案も出そろった感がある。そこで改めて今国会における同省提出法案を見ると、国の政策方針の実現へ向け、民間の団体や事業者らの活動を後押しする性格が色濃く見られる。

 「広域的地域活性化法改正案」では、国や都道府県役割だけでなく、民間団体による協議会制度や、民間事業者等への「支援法人」指定制度が盛り込まれた。「都市緑地法等改正案」は、大臣認定制度等で都市開発における緑地確保を促す。いずれも、「官」の役割は方向性の提示や制度・補助金等での支援にとどまり、政策実現の主役は「民」の事業者等と言える。

 「住宅セーフティネット法改正案」の場合、法律自体が民間賃貸住宅の活用に関する趣旨のため、そうした傾向は一層顕著だ。賃貸住宅オーナーに加え、今後は家賃債務保証業者も主体となって、住宅確保要配慮者の安定居住を図っていくことが求められる。

 こうして列挙すると、地方の過疎化や高齢者の住宅難といった社会課題に対し、行政が対応責任を手放して民間任せにしているような印象を受けるかもしれない。しかし、本来、国や社会のあり方を形作る主役は国民であり民間の事業者だ。公営住宅やUR賃貸等ももちろん重要な役割を持つが、それだけでは国民の居住安定を担保できないことと同様、〝お上〟の政策や事業だけで強く住み良い国が成り立つという道理はない。特に、個人よりも大きな力を持つ企業等の組織は、自分たちの選択と行動が将来の国のあり様に与える影響を自覚する必要がある。

 典型例の一つが、現在の少子化・人口減少や〝人手不足〟ではないか。少子化をあたかも自然現象のように捉える向きもあるが、実際のところ、これは人為的な失策の部分が大きい。若者の雇用縮小や非正規化は、急激な非婚化と少子化の大きな要因の一つ。結果として国内企業の多くが市場の縮小や採用難に苦しんでいることを考えれば、同じ轍(てつ)を踏んではならないのは自明の理だ。

 そうした観点から見れば、今回の法改正案は、事業者が主体となってより良い未来の社会を築いていく好機であると同時に、何もしなければ社会課題を放置する意思表示ともなりかねない。

 もちろん国や自治体には、社会形成を支える土台としての責務がある。しかし、民間事業者も決して他人事ではない。折しも今年は、長く続いた我が国の特異な金融政策にも正常化の兆しが見え、将来へ向けた転換点となり得るタイミングだ。目先の利益も確かに重要だが、あえて長期的な視野を持って国の意図を汲み、「民間の力」でより良い未来の社会を築いていく意識を持ってもらいたい。