7月29日に開かれた第46回「不動産女性塾」はまさに、不動産業界で女性が管理職を目指して働くことの難しさや意味について考える講演会となった。講師は三井不動産初の女性執行役員として知られる宇都宮幹子氏。宇都宮氏は講演前半で同社のDX戦略とD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)政策について語った。後半では自身の経験から女性ゆえに苦労したことや悩んだこと、そしてそこをどう乗り越えたか、更に女性管理職としての責務などを淡々と語った。
執行役員に就任したのは2021年。三井不動産に総合職と入社してから30年が経過していた。総合職は管理職になるまでにあらゆる現場営業に携わる。宇都宮氏も仙台での住宅開発や法人・個人向けの提案営業に通算で約20年間従事した。その後は情報システム部門でのシステム開発やホテル運営会社への出向などを経験。
入社して10年が経ち、仕事にも自信を持ち始めていた頃、土地活用を提案した高齢の地主から「女性に先祖代々の大事な土地は預けられない」と言われ大きなショックを受ける。「女性というだけで、私の実力とは関係ないのかと悔しさがあふれた」と話す。しかし、そこから宇都宮氏は大きく成長していく。「女性は駄目だと思う人は存在する。そういう人の気持ちは変えられない。ならば自分の行動を変えていこう」と。
そして、女性を軽んじる顧客や取引先との交渉は男性社員に交代してもらうようにしたという。それまでは全てを自分でこなすことが重要と考えていたが、周囲の協力を仰いだ方が、物事が進むと理解する。そして一つの結論にたどり着く。「私にとっては〝何の仕事をするか〟よりも〝誰と仕事をするか〟が重要なのだ」と。
今は自分が入社した頃と比べ、若い世代による感覚の違いを実感する日々だという。最近は「女性であることを不利と思ったことはない」「正直そういうの、もう古い」という意見も結構耳にするからだ。しかし、宇都宮氏はこう考える。「確かに時代は変わった。しかし、本当に男女の不平等は解消されたのか」と。
◎ ◎
三井不動産がD&I推進宣言をしたのは宇都宮氏が執行役員に就任した21年。25年4月時点で総合職に占める女性比率は21.1%、女性管理職の比率は10.2%(これは目標達成)である。また、同社は女性活躍推進に優れた企業として今年で4年連続「なでしこ銘柄」に選定されている。
しかし「なでしこ銘柄」があること自体、日本企業全体でみれば、男女間の不平等はまだまだ根深く存在しているということだ。その意味では「不動産女性塾」も同様で、「不動産男性塾」がないこと自体、不動産業界も男性社会が続いているということである。
男女の役割
ただ、北澤艶子女性塾塾長がいつも言うように、男女にはもともとの役割がある。全てが同じになればいいということではない。男と女の性格や性質の違いをどう仕事に生かしていくかが重要なのだ。男性として女性に期待することもあれば、その逆もあるのが人間社会である。
管理職になった宇都宮氏の意識もそこにある。彼女は言う。「登用されたとき、女性ということでゲタを履いたと思われたくないという意見もあった。しかし、それはゲタではなく、女性としての能力に期待しての昇格だ。だから、その期待に応える努力をして欲しい」と。
現在DX部長でもある宇都宮氏は講演の最後に会場に来ていた部下への言葉だったのか、こう語った。
「相手から受容され、信頼されるための努力と工夫が必要。また、何事も挑戦してみると意外な発見があるので、失敗を恐れず前向きに取り組むことが大切。何より、『将来の仲間が苦労しないために今の私が頑張る』という大きな気持ちを持ってほしい」と。