総合

彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇119 津田沼「奏の杜」防災訓練 〝つながり〟テーマに 地所レジ&コミュニティ

 三菱地所レジデンスと三菱地所コミュニティは3月10日、エリアマネジメントの一般社団法人「奏の杜(かなでのもり)」と共同で千葉県習志野市の「津田沼奏の杜」エリアで防災訓練を実施した。

約8300人対象

 例年行われていて9度目となる今回だが、3月に入ってから千葉県で地震が多発していることもあって、住民は高い関心をもって臨んだ。今回は〝周辺地域とのつながりを深める〟をテーマに、これまで対象としてきた三菱地所レジデンスや他社分譲のマンション・戸建て街区だけでなく、JR総武線津田沼駅南側に広がる奏の杜エリア全体(約8300人)を対象とする広域の訓練となった。

 訓練は「ザ・パークハウス津田沼奏の杜」の場合、「子ども防災係」が地震発生を告げる全館放送「これは訓練です(繰り返し)。午前9時に震度6強の地震が発生しました。今回は部屋からは出ず、家族の安否確認マークを玄関ドアの外に張り出してください」と呼びかける緊張した声で始まった(写真(右))。

 マンションごとの安否確認などが行われた後、10時からは「谷津奏の杜公園」で全体訓練が行われた。あいさつした宮本泰介習志野市長は「訓練は必ず役に立ちます。参加した人の顔、訓練したことを覚えているだけでもいいのです。それらの記憶が本番のときに必ずあなたの身を守ります」と力強く語った。

 奏の杜公園では(1)AED・心肺蘇生訓練(2)消火器訓練(3)ベランダのパーテーション蹴破り体験(4)備えるドリル・ワークショップ(トイレ・食料)(5)防災井戸見学など様々なプログラムが行われた。

地震大国という覚悟

 日本は東日本大震災以降だけで震度6強以上の地震が15回も起きている。今回のテーマは「周辺地域とのつながりを深める」だが、そもそも地震大国に住むとはどういうことかを日本人として真剣に考えるときがきている。例えば、東日本大震災を機に「被災地には被災を免れた地域が全力で援助の手を差し伸べる」、あるいは「あの時助けられたから、今度はこちらが恩返しをする」という取り組みが日本のあちこちで増え始めているのはそうした国民意識の表れだ。

 今回も能登半島地震で被害を受けた石川県内の酒蔵を支えるために全国の酒蔵が参加し、被災した蔵からレシピを受けて共同で酒造りを行うプロジェクトが進んでいる。合言葉は「能登の酒を止めるな」だ。また、13年前の東日本大震災で全国の自治体から支援を受けた東北の自治体職員が今度は「恩返し」として、能登半島地震の被災地に入り未曽有の被害から立ち上がった経験を基に有効なアドバイスをしている。

 一方、避難生活をしている人たちの役に立ちたいという想いから、名古屋工業大学の北川啓介教授がダンボールハウス(屋内用)やインスタントハウス(屋外用)を開発した。あるいはWOTAという会社が開発したポータブル型水再生シャワーは風呂に入れない人たちを救っている。

 少子高齢化、財政難、広がる経済格差など課題大国と言われるニッポンだが、日本人同士の絆は確実に深まっている。地震大国の日本だからこそ政府は、大災害でたとえ家を失っても「寒い体育館に寝泊まりさせない」対策にもっと力を入れるべきだろう。

 日頃の防災訓練は日本人の〝民〟としての絆を育むための準備運動と言える。宮本習志野市長はあいさつの中でこうも語った。「毎年の訓練に同じメンバー(参加者)が揃うことはない。本当に地震が起こればなおさらだ。しかし、訓練で一緒に参加した人たちのことは記憶に残る」。 そこにこそ大きな意味がある。人と人とのつながりは結局、そうした自分以外の誰かを想う気持ちから生まれてくるのだから。