総合

彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇109 BESS新商品「間貫けのハコ」 農家のように のどかに暮らす

 失われた〝縁側のある暮らし〟がよみがえる。BESSの家は従来から外との一体感をテーマに広いデッキを採用してきた。「間貫けのハコ」ではデッキを縁側にかえた。 

 デッキはチェア(椅子)文化だが縁側は床座である。近所の人が来たら座布団を出して迎える。「間貫けのハコ」の縁側にはゆったり8人が座れる。そこでご近所同士の交流が自然に生まれる。居心地のよさそうな場があれば好んで集まるのが日本人の特性だ。

 「間貫けのハコ」の間(ま)は場所のこと。「その間が床座になることで家の奥まで視界が貫けていく」とチーフデザイナーの山中祐一郎氏は説明する。

 また広報の吉田忠利氏は個人的意見として「床座は小津安二郎映画監督が得意としたローアングルの撮影手法に通じるものがある」と指摘する。小津作品ではカメラが低い位置にずっと固定されたままである。そうすることで人物の微妙な動きや部屋の中の小物までもが妙な存在感をもって伝わってくる。

 つまり、人間とその暮らしがリアルに浮かび上がる。「間貫けのハコ」のモチーフは〝人間味〟を失いつつある現代社会へのまさにアンチテーゼでもある。

人間味失う社会

 社会が人間味を失えば人間社会とは言えなくなる。人と人との交流が希薄になり人間社会が弱体化すれば能力が今の何千倍にも進化するAIに乗っ取られる可能性がある。 その頃にはロボット技術も進化しているので優れた知能だけでなく、人間のようになめらかに動く足、手、胴体を持ち目や耳の機能も備えたAIロボットが人類にとってどのような存在になっていくのか想像もつかない。

 人類を敵視する可能性すらある。なぜなら彼らは自らの学習結果として、地球温暖化を食い止め生物多様性を維持していくためには人類が地球上からいなくなればいいと判断するかもしれないからだ。

 人類の危機を救うのは日本人の感性ではないか。日本人は住まいに自然を取り入れ、ゆっくり長閑に暮らす感性をもった民族である。人間社会の絆を取り戻す力を持っている。日本人は先祖をさかのぼれば多くは農民だったという農耕民族である。だから農家のような広い縁側を持つ住まいには郷愁を感じるDNAがある。「間貫けのハコ」の縁側文化は日本人の感性を復活させる力となる。

幸せとはなにか

 幸せが快適に暮らすことや生活が便利になることに依拠するのであれば現代人は過去のどの時代よりも幸せに生きている。特に都会での暮らしはその極致ともなっている。 しかし、幸せがなにかを創造すること、それによって自らの〝生〟を感じることにあるのだとすれば、現代社会はそうした精神の躍動を養うにはあまりにも多くの障害物に満ちていると思う。

 高架で走り抜ける通勤電車の窓から肩と肩を寄せ合うようにひしめく家々を眺めるたびに今の日本の住まいには心躍る〝ワクワク感〟が少なすぎると思う。その要因の一つは没個性的な家並みのせいでもあるが、住んでいる人の夢や願いがそこから湧きおこってきていないように感じるからである。

 家で自然を愛でながらくつろぐ人、近隣の人たちと楽しく団らんする人々――そんな楽しそうな光景がこの国の隅々に増えていったら、日本はもう一度元気で活力のある国になることができるような気がする。

 少子高齢化、人口減少時代にあって住宅の果たすべき役割が大きく変質し始めている。というよりも住宅の社会的役割が飛躍的に大きくなろうとしている。中でも大事な役割が「人と人がつながる場所になる」ということだ。地域の人々とだけでなく、友人や職場の同僚を招くなど住まいが様々な人たちとつながる場所になれば日本は変わる。 人口減少、超高齢化の時代にあっては、個々の家が人と人とのつながりを強めていく場とならなければならない。そこから生まれてくる「住文化」こそ日本を救う大きな力となっていくだろう。