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大言小語 地域の文化を育んで

 先月、山の上ホテル(東京都千代田区)が来年2月13日からの休業を公表した。築86年を迎える建物の老朽化への対応を検討するためで、休業期間などは未定という。来年、創業70周年を控えての発表だが、19年にも半年ほど休業し、老朽化に伴う給排水設備や厨房の改修など、復元を伴う大規模工事を行ったはず。

 ▼ホテルの建物は、ウィリアム・メレル・ヴォーリズが設計を手掛けた。元は炭鉱で名を成した実業家・佐藤慶太郎が社会教育事業の一環として建てた「佐藤新興生活館」という施設。衣食住や社会習慣などの合理化を目指し大正期から昭和初期に起こった「生活改善運動」の拠点だった。

 ▼ホテルのある御茶ノ水の明大通りには、日本初の西洋式集合住宅「文化アパートメント」と旧主婦の友社ビルの2つのヴォーリズ建築があった。共に80年代半ばに解体された。ただし、旧主婦の友ビル跡地にオフィスやホールの複合施設「お茶の水スクエア」を手掛けた磯崎新は、旧ビルのファサードを復元。施設の一部が「日本大学カザルスホール」として現存する。

 ▼「カザルスホール」の建物は03年に千代田区景観まちづくり重要物件に指定された一方、10年以降、音楽ホールとしては使用されず、存続の意向も明確ではなかったたが、今年7月、同ホールを26年6月に復活させる計画が明らかになった。建物は地域の文化を育むもの。ホテルの再開を願ってやまない。