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酒場遺産 ▶18 東京・飯田橋 「鳥政」 3代続く絶品ハツの店

 飯田橋東口。無数のリベットが光るハードボイルドな鉄橋のガードをくぐると、堀沿いに立つ直方体の素っ気ない「千代田街ビル」が見える。街の再開発が進む中、この古いビルは時代に取り残されたままだ。創業85年の老舗焼き鳥屋「鳥政」は8軒並ぶ店のひとつだ。 かつては大神宮通り沿いにあったというが、約70年前に東京都所有のこの地に飲食8軒が共同出資して木造長屋を建てた。店の古いモノクロ写真を見せていただいたが、戦後の空気感が滲み出ている。その後、昭和40年に軽量鉄骨造2階建に建替え現在に至っている。代が続かなければ廃業という縛りの中、8軒のうち「鳥政」だけが3代目(長島禎治さん)に引き継いでいる。焼き鳥が美味い。大ぶりのカワ、ハツ、レバー、ガツ、砂肝180円、モモ、ネギマ、ボンジリ250円。特にハツは絶品だ。

 肉豆腐、牛もつ煮込み、牛タンと玉葱の塩麴炒め、銀鮭カマ塩焼きなどが500~700円。酒場ではレアなTJSPカレー(禎治スペシャルの意)。酒はクラシックラガー大瓶700円、生ビール一番搾り550円、酎ハイ(キンミヤ)は名物ルイボスハイ、ブルーベリー黒酢ハイ、日本酒は高清水中心。ワイン、焼酎なども手頃な価格だ。

 いつもバリバリと働いている若見えの店主・禎治さんは57歳、そしていつも手早く料理をつくるお母さんは82歳。ふたりとも明るく優しく客との会話も弾む。人気店なので8人ほどのカウンターとテーブル席ひとつはいつも常連で一杯だ。筆者は仕事帰りたまに寄るが、カウンター席をつめてもらい滑り込む。昭和の空気を色濃く残すこの店で、何故か気持ちが落ち着く。そしてハツ焼きに病みつきだ。(似内志朗)