不動産業界には様々な勉強会や集まりがあるが、その多くは情報交換や研修会などを通じてビジネスに役立てるための活動が中心だ。そうした中、一般社団法人不動産女性塾(北澤艶子塾長)はむしろ会員同士の〝人間的成長〟を目指しているところに大きな特徴がある。女性塾を取材するたびに独特のパワーを感じるのは女性塾が〝人間塾〟でもあるからだと思う。 ◇ ◇
1月26日に明治記念館で開かれた今年初のセミナーは、折あしく10年に1度といわれる寒波に襲われたが全国から86名もの会員らが参加した。講師は新春にふさわしく明るい陽光のような(株)ドムスデザイン社長の戸倉蓉子氏。同氏は30代で看護師から建築デザイナーへの転身を決意し、イタリア・ミラノに留学。帰国後は一級建築士資格を取得。現在は〝ひとを元気にする〟をテーマにした賃貸マンションや戸建て住宅、病院らしくない病院など革新的空間を創出する異色の建築デザイナー。
この日の講演テーマは「人生をデザインする魔法」。戸倉氏は大きな転身を果たした前半生を語りながら、人間が人間として成長するためには、自分を「私」という一人称ではなく、「あなた」という二人称で捉えることが秘訣だと明かした。
「あなたはだれを元気にしたいのですか」「あなたはまわりの人をしっかり見ていますか。スマホばっかり見ていませんか」「あなたは両親に感謝していますか」――などと自分に問いかけることで、自分で自分をデザインする魔法がかかり始めると語る。
戸倉氏はこの日、08年に出版した自著『いい家に抱かれなさい~なりたい自分になれる空間づくり』を全員に贈呈した。その中に、こんな問い掛けがある。
「あなたは100%の力でいまを生きていますか」――そのチェックリストとして10項目が掲げられている。全部があてはまれば100%で生きているが、5つしかなければ50%の力でしか生きていないというわけだ。
100%を生きる
項目は「朝、会社に行ったとき笑顔であいさつしていますか」に始まって、最後は「実家に帰ったときは両親に優しい言葉をかけていますか」という質問だ。ちなみに筆者は6項目があてはまった。
ときどき、「人生は6割ぐらいを目指すのがちょうどいい」といった声も聞く。そういえば、昨年放送されていた大和ハウスのTVコマーシャルに、「この男は『人間の出来は65%ぐらいがちょうどいい』と考えている。…そんな彼の心の中に、新しい家の姿が生まれた」というセリフがあった(本コラム22年10月25日号11面で紹介)。そのときは私もそう思っていた。
しかし、戸倉氏はこう述べている。「100%で生きるなんてしんどいと思われるかもしれません。でも、本当は中途半端に生きるほうがもっと疲れてしまうのです。なぜなら、50%で生きる人には50%以上の結果は出ないから。結果が出なければどんな人でもいずれやる気を失ってしまいます」。
更にこう続ける。「あなたが20%で生きているなら、人があなたを必要とする割合も20%にしか過ぎない。一方、あなたが100%で今を生きている人であれば、会社でも『あなたがいないとダメだ』という大きな存在になる。人間はほかの誰かに必要とされてはじめて自分の存在価値を確認できる生き物なのです」。
自分を客観視することは、自分が人からどう見られているかに気付くことでもある。講演の締めくくりに戸倉氏はこう語った。
「あなたの未来はあなたがいま決断し、行動することで変わる。行動すれば必ず障害がやってくるが、恐れる必要はありません。命を取られないのであれば、すべてはゲームだと思えばいいのです。人生は決断の連続ですが、その成否は未来にならないと分からないのですから」
大きな決断をしたら、それをゲームのように楽しむことが「なりたい自分を自分でつくる」魔法になるということなのだと思う。