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大言小語 サトゥルヌス

 ルーベンスやゴヤの絵画に「我が子を食らうサトゥルヌス」がある。子供に地位を追われるとの予言を恐れ、生まれてきた自分の子供を次々と食べていくギリシア・ローマ神話をモチーフにしたものだ。英語で悪魔を示すサタンの語源にもなっている。

 ▼農耕神が自分の子供をバリバリと食べるショッキングな絵画なのだが、神話では子供たちを次々と丸のみにしていくという内容だ。妻のレアは、夫にこれ以上子供をのみ込ませないために、岩を産着に包む。それを子供と思い、サトゥルヌスは岩を丸のみしてしまう。助かった子供は、隠されて育てられた。成長して予言通りにサトゥルヌスは子供に追放される。その子供は、かの全知全能の神ゼウスだ。

 ▼丸のみした子供は、すべて助かった。サトゥルヌスは事前に薬を盛られ、子供たちをすべて吐き出したからだ。のみ込まれた子供たちも神なので死んでいない。ゼウスは2人の兄と共に世界を統治する。

 ▼サトゥルヌスは、子供たちをのみ込む前は、尊敬を集めた神だった。彼の統治時代、社会は黄金時代で、誰もが協調し完全な平等だったからだ。

 ▼今の日本はサトゥルヌスのようになっていないだろうか? バブルの黄金時代の残滓(ざんし)に囚われ、若い世代の台頭を恐れてはいないか。神話の子食いのような現状なら、海外や社会の片隅に潜む若いゼウスに追われるだろう。