マンション・開発・経営

インタビュー 不動産とSNS 榎本佳納子氏 イーエム・ラボ(東京都港区) 代表取締役 〝ありがとう〟を集める

 紹介を中心にクチコミなど独自の接点づくりで売買を軸とした不動産仲介業を展開するイーエム・ラボ(東京都港区)は、SNSや動画配信サービスも駆使し、顧客からの「ありがとう」を集めている。人間性の〝人となり〟で選ばれる仕事を追求するその思いには、何が込められているのか。同社代表取締役の榎本佳納子氏に聞いた。(聞き手=坂元浩二)

 ――売買仲介を軸に。

 「自身は兵庫・淡路島で育ち、材木商・建売業の祖父、建設資材商社の父、ハウスメーカー勤務の叔父に囲まれて、父には〝将来は何か格好良いことをしなさい〟と教わって成長した。決められたレールではない道を歩みたい、その気持ちで海外の留学や勤務で見聞を広め、それらの街のエネルギーに触発された。帰国後の日々に物足りなさを感じ始め、主人の実家も不動産業だった縁もあり、自己実現の欲求の高まりとも重なって不動産業を始めた」

 ――海外勤務を経て。

 「自社ホームページには物件情報を掲載しない紹介制で、顧客の海外赴任や帰国時の売りたい・買いたいなどを支援している。当社はハウスメーカーのように住宅商品の物件では勝負できないため〝人となり〟で選んでもらえる会社を目指している。新たな住まいを考え始める〝ステップゼロ〟の地点から顧客と共に歩み、一緒に考えている」

 ――共に歩む。

 「どういう暮らし方を望み、どのような環境で子育てをしたいのかなど、顧客が描く理想の暮らしや住まいは様々。それを形として明確化するサポートの段階からパートナーとなる。潜在的なニーズの声を聞く際に、気兼ねなく話し合い、アドバイスもできるSNSは、有効な手段として活用している。その気軽さが影響し、顧客とは友人関係のようにもなる」

 ――友人関係のように。

 「そもそも、戸建てがよいのか、またはマンションか、住宅ローンの選び方など、初歩からの疑問点を解消していく。内見で同行した後、いつでも振り返りやすいように図面などと一緒に内見動画を提供して共有する。契約などの重要書類は解説付きの読み合わせ動画を事前に提供する。これで本番時には具体的な質問がしやすく、トラブルを防げる。SNSや動画を有効活用すると、こちらの人柄が伝わり、互いの気持ちが通じやすくなる」

 ――動画も提供して。

 「これらはチーム制で対応している。細かやな配慮は手間に思われがちなものの、ひと言添えるコメントだけでも、受け手の気持ちは大きく変わる。単に数をこなすだけの気持ちでは、無駄な時間や作業が発生する。一つひとつの商談の工夫を追求すると、相手の心に響く。親身な対応はきっと相手に伝わると思う」

 ――心に響くと。

 「顧客は情報だけが欲しいわけではない。一つの縁が親族や友人、近所の人などの輪となり、紹介が紹介を生む。たくさんの〝ありがとう〟の声が届き、それが仕事のやりがいになる。今後の日本では、米国の不動産エージェントのように個人事業主の形ではなく、企業の強みを生かしつつ、組織内で埋没しがちだった営業担当者の〝個性〟を生かす営業スタイルになると思う」