総合

大言小語 思い出づくり

 不動産テックサービスの紹介や不動産DXの推進方法を解説するイベント「不動産DXフェス」を、住宅新報が主催して8月下旬に行った。ITツールの導入で成功体験を得た企業と、得られていない企業に〝差〟が出ているとの講師の見解が印象に残った。

 ▼振り返れば、今では当たり前のように使うスマートフォンは、10年も掛からず一気に社会に普及した。一度利便性を享受すると、以前の不便さに戻りたいとは思えない。これは消費者の一般的な感覚でもある。最近はレコードやカメラのアナログ回帰ブームもあるが、社会全体で再燃するわけではない。

 ▼一方、オンラインでは、「現実の空間のような空気感や臨場感がない」、ドライで簡素な対話になりがちで、「現実の空間のような〝思い出〟をつくりづらい」などの意見が同イベントでは出ていた。これも、同感する人は比較的多いと思う。オンラインで商談の機会が従来よりも増えたが、会話が〝一問一答〟のような雰囲気になると、一抹の寂しさを感じる。

 ▼現状のオンラインで実現できていないものは、ほかにもある。それは「匂い」だ。先日、街で通り過ぎた見知らぬ女性の香水の匂いから、自身の20年以上前の記憶が急に、鮮明に思い出された。これは、「プルースト効果」というそうだ。もしも不動産のオンライン取引でも匂いを感じられれば、いつの日か、忘れがたい体験として思い出す日が来るかもしれない。