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~横須賀に特異な賃貸住宅市場~駐留米軍向け家賃 相場2.5倍 将校級は40万円以上 高収益で滞納なし安心感

 人口減少の本格化が賃貸住宅マーケットに暗い影を落としているが、新型コロナ感染拡大で個人所得が大幅に目減りして入居者の家賃負担能力がなお落ち込む環境だ。賃貸物件を運用する大家にとっては稼働率と適正な賃料収入を得られるかに懸念が及ぶ。そんな中で神奈川県横須賀市に特異な賃貸住宅市場が存在する。横須賀に駐留する米軍の将校や兵士、基地内の学校・病院の先生といった軍属向けに貸し出すビジネスモデルで安定・高収益を上げている大家を追った。

 基本的にベース(基地)内に居住することを促されるものの、ベース外に生活拠点を持つ軍関係者は少なくない。そうした米国軍人に照準を当てて戸建て住宅を貸し出したことがある元リクルートで個人投資家の梅島達夫氏(仮名・40代)は、「相場より2~3倍の家賃で住んでもらえることが魅力だ。国内には他にも米軍基地が存在するが横須賀の場合、相場の平均2.5倍ではないか」と話す。

 例えば単身者向け40~50m2の家賃は20万円弱、将校など幹部向けが40万~50万円、軍属家族向けが25万~30万円以上で借り上げてもらえるという。背後に米軍が付いているので家賃滞納や夜逃げといった心配がない安心感が人気だ。日本政府の思いやり予算から拠出される家賃を入居者が振り込む。ときには数カ月の間、〝家賃滞納〟が生じることもあるようだが、この場合は入居者が仕事で空母に乗り込み物理的に振り込めないだけで半年後に一括で振り込

むケースだといい、素行の悪さからではないとする。入居期間は平均3年ほどだ。原状回復しないで退去するので費用として敷金を徴収しており、家賃を回収できなかったという例は聞かれない。

米査察官が家賃決める

 米軍の査察官が物件を確認して家賃を査定する。「この物件は、この金額ですね」といった感じになるが、査察官に認められなければ貸し出せない。査察が通ったとしても入居者に気に入ってもらえないと契約してもらえない。査察官と入居者に気に入ってもらうには米国人仕様が求められる。例えば、家族向けの戸建て住宅に居住する場合は、日当たりは気にしないがキッチンに七面鳥が焼けるオーブンを備えたり、シャワー・トイレを2カ所以上に設置するなどで米国人の生活習慣に合うよう中古住宅ではリフォームをする必要が出てくるのが一般的だ。部屋数よりも寝室が広いことを好むのも特徴だ。新築の場合でも、そうした点を踏まえての企画・設計が重要になっている。

 ベース需要を当て込んで土地を仕入れて戸建て住宅を建てたり、中古住宅をリフォームして貸し出す個人投資家を散見するが、日本人相手では人気のない物件・立地であっても取引の対象になっている。物件購入額を1年から数年で回収できるボロ物件投資の延長線上のような格安物件を仕入れて40~50%の高利回りをたたき出すケースが見受けられ、投資回収後に売却する投資家も少なくない。

 前述の梅島氏は、「物件購入費とリフォーム代を含めた投資額のほぼ倍の値段で売却できた。高収益のトラックレコードが裏付けとなって高値で売れる」と話す。

隙間産業で地元に定着

 横須賀中央駅から汐入駅の周辺にはアメリカの軍人・軍属向けベース物件の売買を取り扱う不動産事業者が軒を連ねている。流ちょうな英語で応じる社長もおり、「二十数年前からベース案件を手掛けているが、主なところで6~7社はある。しかし、事業者が増えている感じはしない。地元では隙間産業として定着しているものの、最近はコロナ下で基地外での活動に厳しい目が向けられていることもあってベース内での生活を求められて軍人・軍属需要に若干の陰りも見える」(地元事業者)と話す。ただ、空室対策に悩む大家や管理する不動産事業者、収益を追求する投資家にとって安定・高収益稼働が魅力的に映っているのは確かだという。

 国内には複数の基地が点在する。ベース賃貸は横須賀にとどまらない。基地によって賃料水準が異なるが、高水準は横須賀や沖縄だとされる。